<路地裏・夜>
コンビニに行くと、これまた人でいっぱいで、商品は残り少なく、
レジは長蛇の列になっていた。
とりあえず、おにぎりとビールとつまみと、そして牛乳を買って店を出た。
コンビニの帰り道、さっきの路地裏に行ってみるが、猫の鳴き声がしない。
中村 「にゃあ~、にゃぁ~」
俺は、呼びかけながら植え込みの陰を探してみるが、気配もない。
中村 「なんだ。待ってろって言ったのにな。にゃぁ~!いないのかー?」
少年 「にゃぁ~」
中村 「うわぁ!」
俺は声にびっくりいて振り向くと、そこには浴衣を着た高校生くらいの少年が立っていた。
少年 「おじさん、さっきの猫はもういないよ」
中村 「え?どこに行ったか知ってるのか?」
少年 「女の子が連れてった」
中村 「そうか・・・。」
俺は、がっかりしていた。
少年 「ねぇ、おじさん。猫の代わりに俺を連れて帰ってよ。」
中村 「はぁ?何を言ってるんだ?」
俺は、驚いて少年の顔を見る。
すると、まっすぐに俺を見つめる少年の瞳に釘づけになった。
さっきの猫とどこか似ている気がした。
少年 「俺、さっき捨てられたんだ。一晩だけでいいからさ。」
中村 「いや、君まだ、未成年だろ?家に帰らないとまずいだろう。」
少年 「帰るところなんてないよ。捨てられたって言っただろ」
中村 「え?親に捨てられたってことはないだろ、さすがに?」
少年 「違うよ、恋人に捨てられたの」
中村 「恋人?恋人と住んでたのか?ん~。それは大変気の毒だったな。
とはいえ猫じゃないんだから見ず知らずの君を連れて帰るわけにもいかないだろ。じゃっ!」
俺はそう言って踵を返した。
少年 「ひどいよ~俺のことは遊びだったの!?結婚するからってぇ~」
いきなり、意味不明なことを大声で叫びだした。
俺は慌てて振り返り、咄嗟に口を塞ぐため抱きしめた。
柔らかな髪がふわりと顔をくすぐり、爽やかな草の香りがした。
顔をあげてまわりを見渡すと、チラリと路地裏を覗き込む人はいたが、
痴話げんかくらいに思ったのか、人々は素通りしていく。
大人しくなったので腕の力を緩めると、
少年 「ぷっはぁ~苦しかった~もう、殺す気?」
そう言って、まっすぐに俺を見つめる。
小柄な彼を力いっぱい抱きしめたので、顔が俺の胸に埋まってしまっていたらしい。
少年 「さっきは猫に、人間だったら連れて帰るって言ってたのに、
今度は猫だったら連れて帰るとか言うわけ?」
中村 「それは、猫相手だったからちょっと下心を声に出して言ってみただけだ。
っていうか、お前なんで知ってるんだ?」
少年 「俺、近くにいたから全部聞いてた。」
中村 「うわぁ~猫に夢中で周り見えてなかったな・・・」
少年 「いいだろ、俺人間なんだからお持ち帰りしてよ。」
中村 「いや、だから女の子をお持ち帰り・・・って俺、何言ってるんだ?」
少年 「あの猫だってオスだったし。また大声だすよ?」
中村 「ああーもうわかった!じゃぁ、ついて来い。
でも連れて帰るって言ったって、家に帰るわけじゃないんだ。
会社で朝まで仕事するつもりで・・・」
少年 「おじさん、どうせ仕事するつもりないでしょ?ビール持ってるし。」
中村 「うっ。・・・わかった。その代わり、明日の朝にはちゃんと保護者のところに帰りなさい」
少年 「やった!ありがとう」
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