真っ白な光に包まれると、ふわりと身体が軽くなって意識を失った。
どれくらいの時間が過ぎたのだろう?
気がつくとあたりはすっかり明るくなっていた。まわりを見渡すと、そこはあの向日葵畑だ。でもなんだか少し様子が違う気がする。
何が違うんだろう?
理由のわからない違和感だけを感じながら首を傾げていると、猫の鳴き声が聞こえてきた。
「ヨネ子?」
背の高い向日葵をかき分けて鳴き声のする方へ歩き出すとすぐに道路へ出た。そして俺はその景色に絶句した。道を挟んだ向こう側も、俺の家があったはずの場所も、祖父母の家があったはずの場所も、すべて向日葵畑になっている。
どうなってるんだ・・・?
ただ呆然と立ち尽くす俺の足下にヨネ子がすり寄ってきた。そしてスタスタ歩き出すヨネ子に慌てて後を追った。祖父母の家があった辺りを通り過ぎて暫く歩くと、遠くに黒っぽい服を着た男の背中が二つ並んでいるのが見える。近づいていくと話し声が聞こえてきた。
「颯太。・・・遅くなってごめんな。」
「良介君・・・」
「颯太。あの日、ここでずっと待っていてくれたんだろ?それなのに俺。本当にごめん。怒ってる・・・よな?」
「颯太は喜んでいるはずだよ。やっと良介君に会えたのだから。」
俺は全身が凍り付いたように身動きひとつできなかった。
「今朝早く警察から連絡があってね。やっと見つかったって。あれから3年も経ってしまった。変わり果てた颯太と対面するよりも、君には・・・この場所に来て欲しかったんだ。」
「あの日・・・俺が颯太を呼び出していれば・・・こんなところにひとりぼっちで・・・。」
「君のせいじゃない。天災だったんだ。それに・・・颯太はひとりじゃない。じいちゃんも、ばあちゃんも、・・・うちのも一緒だ。そしてヨネ子も・・・。」
急に蝉の鳴き声が大きく聞こえてきて、俺はあの日のことを全て思い出していた。
「夕べ颯太の夢を見たんです。今まで一度も見たことなかったのに。・・・颯太は怒ってなかった・・・。すごくリアルな夢で、俺・・・やっと自分の気持ちを伝えられたんです。」
そうか・・・。
良介は、「好きだった」って言った。良介の言葉が全部過去形だったのは、時間が・・・進んでいたからだったのか。
俺は一気に身体の力が抜けて思わず口元がゆるんだ。
よかった・・・良介は生きてた。
頬を静かに暖かいものが伝う。
「おじさん・・・?」
「私もね、家族も家も何もかも失って、どうやって生きていけば良いのかわからなくて、何も手に着かないような日々を過ごしてきたけれど、・・・もう3年だ。こうして颯太がやっと見つかって、ようやく前に進めそうだよ。きっと颯太もそれを望んでいるのだと思う。だから君も・・・」
声が震えて言葉が途切れた。空を見上げる父親の背中は、昔より少し小さくなったように見える。
父さんの泣く姿を初めてみた。親不孝だな・・・俺。
蝉の声を伴奏にして、どこからともなく歌声が聞こえてきた。透き通るような声で歌うこの曲は、どこか懐かしくて聞き覚えがある。気づくと小さな手が俺の手を握っていた。
「ヨネ子・・・?」
そこには、子供の頃、あの向日葵畑で出会った白いワンピースを着た少女が立っていた。
「一緒に歌う?」
「・・・そうだな。」
俺はゆっくりと頷いた。
父さん、ありがとう。これからの人生が幸せでありますように・・・。
良介、大好きだったよ。良介と出会えて俺は幸せだった。
踵を返して、ヨネ子と手を繋ぎ歩き出す。向日葵畑の向こうで、じいちゃんとばあちゃんと、母さんが手を振っている。
・・・やっと俺の時間も動きだしたみたいだ。
Fin
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