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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
<妄想>です。
実在する地名・人名・団体名が登場しても、それは偶然ですので、まったく関係ありません。
また、ここに記されている内容はオリジナルですので
著作権は作者にあります。勝手に使用しないでくださいね。
【18禁表現を含みます】


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【別冊:まだ見ぬ景色】5 ~その頃、このふたりは・・・?~

<嵐の後に・・・> ←をクリックすると本編の「その頃」が開きます。


彰仁が部屋を飛び出していった後、湊は後悔の念に苛まれていた。
上気した頬を赤く染めて俯く彰仁が可愛くて抱きしめた。密着すると彰仁の少し早くなった鼓動を感じて愛しさがこみ上げた。その愛らしい唇に触れたくて・・・そして、触れたらもう止められなかった。

「何してんねん。あほや。天使の笑顔奪って・・・ほんまあほや。」

目に涙をいっぱいためて、唇を噛んで震えている彰仁の顔が脳裏にこびりついて離れない。

「僕んこと、好きやったって・・・過去形で言われてしもた。・・・最悪やな。」


湊が眠れぬ夜を過ごした翌早朝、紫苑がベースを取りに来た。
昨日の光の様子を聞くと、やはり酷かったようだ。それでも紫苑は冷静だ。
高校生なのに、しっかりしている。でも、それだけ苦労してきたということなのだろう。

光は自分のせいで亮太が死んだと思っている。でも、湊もまたその責任を感じていた。
その頃の湊は何よりライブが大切だと思っていた。
大阪での自分達の知名度は高かったし、ライブを飛ばすなんてことは考えられなかった。
直接亮太に言ったわけではなかったが、湊はライブを成功させるために、亮太に卓哉を迎えに行って欲しいと思っていたのだ。
紫苑の手前、客観的な話し方をしたが、自分の心の中もまた荒波にもまれる小舟のように揺れていた。

「僕もクリと同じや・・・アキの気持ちが自分と同じになるまで待てんかった・・・」

帰り際、紫苑が暫く練習を休みたいと言ってきた。何か思うところがあるようだ。
湊も、少し彰仁と距離を置かなければと考えていたので、新曲制作という理由でメンバーに暫く練習は休むことを伝えたのだった。

しかし、その日の午後、光がびっくりするほど顔を腫らしてやってきた。
自分もキャパオーバーな位悩んでいるくせに、湊の様子がいつもと違うことに気づく光に湊は少し癒されていた。

「ほんま、気い使いしぃやな。さすがLumie`re (リュミエール)のリーダーや。」

湊がそんなことを想っていると、光が唐突に聞いてきた。

光  「なぁ、湊はいつから男の子好きやったん?」

「どんなタイミングでこの質問やねん!」

光が夕べの自分と彰仁のことを知っているとは思えなかったが、あまりのタイミングの悪さに湊も動揺を隠せなかった。
よくよく話を聞けば、どうやら光は紫苑に魅かれているようだった。

「誰かを好きになる言うことは、幸せやけど切ないな・・・」

それから湊は曲作りに没頭した。
何度か彰仁に電話やメールをしたが、返事がくることはなかった。


その頃彰仁は、Lumie`re (リュミエール)の練習もなく曲作りをすることもないので、大学の友達に誘われるままに合コンに参加していた。
とにかく新しい彼女をつくろう。自分の気持ちを確かめることが怖くて、湊のことを考えることからただ逃げたかったのだ。




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【別冊:まだ見ぬ景色】4 ~その頃、このふたりは・・・?~

<雷雨の後の嵐 ②> ←をクリックすると本編の「その頃」が開きます。


彰仁は湊に組敷かれ身動きも出来ずにいた。
あまりにも突然の想像もしていなかった湊の行動に戸惑い、自分に何が起きているのか理解できずにいた。
大パニック状態の彰仁の口腔内では湊の舌が我儘に動きまわる。

「逃げなきゃ・・・抵抗しなきゃ・・・こんな祥くん見たことない・・・」

でも、彰仁の心と身体は分離したかのように、ちぐはぐになっている。
全身がゾクゾクと震え、身体に力が入らない。

彰仁 「んはぁ・・・んっ・・・ふぁ・・・・はぁ・・・・・」

湊の情熱的な口づけに、彰仁は吐息を漏らす。
そして、湊の唇は彰仁の頬に耳に首にキスの雨を落としていく。

湊  「アキ・・・アキ・・・ふぅ・・・アキ・・・・」

熱い吐息に絡めて彰仁の名前を呼ぶ湊の声は、少し掠れていて甘い。
その間にも湊の手は、彰仁のTシャツをまくりあげ胸の突起をつまんではころがす。

「なんで?・・・なんで祥くんはこんなことするの?・・・俺、男なのに。祥くんも男なのに。・・・いつもみたいに俺の事からかってるの?抵抗しなきゃ・・・でも・・・」

彰仁の頭の中は、ぐるぐるとして混乱したままだが、身体は快感に支配されていく。
ついに湊の舌が彰仁の胸の突起を捉えると、彰仁が今までに経験したことのない衝撃的な快感が全身を貫いた。

彰仁 「んなっあっ!!」

彰仁の鼻に抜ける甘い叫び声に湊は、ハッとして我に返った。
跳びのくように身体を離すと、悲しそうに瞳を揺らして彰仁をみた。

湊  「・・・アキ。・・・ごめん。・・その、アキが可愛くてっ・・」

いつもは頭の切れる湊だが、どうにも言い訳の言葉さえ見つけられずにいると、彰仁は力いっぱい湊の身体を跳ねのけて立ちあがった。
彰仁は目にいっぱいの涙を溜め、身体を震わせている。

彰仁 「俺の事・・・からかったの?」
湊  「ちゃう!・・・ほんまにアキんことが好きなんや。ほんまに可愛い思っとんねん。」
彰仁 「・・・俺、男だし。・・・俺だって祥くんのこと好きだったけど、でもっ!・・・こんなことするの、変だよっ!男同士でキスとか・・・祥くん頭変になった?」
湊  「・・・そう・・やな。・・・ほんまごめんな。」
彰仁 「祥くんのバカっ!!」

彰仁は叫ぶと、部屋を飛び出した。
外に出ると雨は上がっていたがまだ遠くで雷鳴が響いている。
雨上がりのむわっとした湿度の高い空気が彰仁に纏わりついてきた。

「祥くんのバカっ!」

彰仁は湊にキスをされたことも、身体に触れられたことも嫌ではなかった。
ドキドキして身体が熱くなっていく自分が怖かったのだ。
男同士で愛し合う人達がいることは知っている。でも、自分は違う。
そんなの、やっぱり変だ。男の人を好きになるなんて。男の人とキスとかそれ以上とか。

「祥くん・・・悲しそうな顔してた・・・俺のこと好きだって・・・俺だって、祥くんのこと好きだ。・・・でもっ!」

甘く掠れた声で自分の名前を呼ぶ湊の声がリフレインして止まらない。
彰仁は首をブンブンと大きく振ると、ぬかるんだ地面を踏み締めて大股で歩いた。



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【別冊:まだ見ぬ景色】3 ~その頃、このふたりは・・・?~

<雷雨の後の嵐 ①> ←をクリックすると本編の「その頃」が開きます。


雷にトラウマがある光は、屋外にいる時に雷と出会ってしまうと、かなりの確率でパニックになってしまう。しかも重症だ。
今日も、メンバーで慌てて探したが、運良く紫苑が見つけて家まで送り届けてくれた。
湊はライブハウスに置き去りになっていた紫苑のベースを彰仁に持たせ、自分のキーボードを持って車で家に帰ってきた。

実は湊も、雷雨は苦手だった。
バンドメンバーだった栗林亮太と柿崎卓哉の死は、湊の心へも大きな影響を及ぼしていたのだ。
笑い上戸でいつもクールな湊だが、雷の日は憂鬱になる。そして精神状態が少し不安定になるのだ。

「ももんこと見つけたんが紫苑くんで、ほんま良かった・・・。」

パニックになっている光を見るのは辛かった。特に今日は、たまたま紫苑とその話をしていたので、いつも以上に思い出してしまっていたのだ。
もし自分が見つけていたら、光の心の揺れをダイレクトに受け取ってしまい、耐えられなかったかもしれない。

湊は、マンションへ到着して楽器を部屋へ運ぶと、リビングのソファーに深く腰掛けて、ため息をついた。
彰仁がバスルームからタオルを持ってきて、湊に手渡した。

彰仁 「今、お湯入れてるから。髪、濡れてるからこれで拭いてね。」
湊  「あぁ、ありがとう。」
彰仁 「元気・・・ないね?」
湊  「ん?・・・ちょっと疲れただけや。」

湊はタオルを受け取ると、彰仁の手首をとって隣に座らせた。

湊  「・・・アキもゆっくりしい。」
彰仁 「うん。・・・タオル貸して。拭いてあげる。」

彰仁はいつもと違って気だるい雰囲気の湊に、なんだかドキドキしてしまって落ち着かなかった。
視線を合わせられず、湊が手に持っていたタオルを少し強引に取ると、俯いたまま長い黒髪の先をタオルで挟んで押しながら水分を拭き取って行く。

「もう、祥くん色っぽすぎるよ。・・・っていうか、ドキドキしちゃう俺って何?」

彰仁 「も、ももくん、大丈夫かな?」
湊  「ん?・・・紫苑くんと一緒やから大丈夫やろ。」
彰仁 「そっか。紫苑くんって、高校生なのにしっかりしてるよね。」
湊  「・・・そうやな。」
彰仁 「ベースもすごい上手だしかっこいいし、頼りになるっ・・・・!?」
湊  「アキ・・・」

湊に名前を呼ばれ顔を上げた瞬間、ふわりと抱きしめられた。
彰仁は一瞬のことで、何が起きたのかわからず硬直していると、湊の長い腕に力が入り更に身体が密着した。

彰仁 「祥くん・・・?どうしたの?」

彰仁の心拍数が一気に上がる。

「祥くんのスキンシップはいつものこと・・・だけど、今日の祥くんは色っぽくて、なんだかいつもとちょっと違う・・・」

湊  「・・・アキも紫苑くんことが好きなん?」

湊は彰仁の首に顔を埋めたまま、くぐもった声で言う。

彰仁 「えぇ?何言ってるの?好きって・・俺、女じゃない・・・し・・・」

次の瞬間、湊の細くて長い指が彰仁の顎を、クイっと軽く上げると唇を塞がれていた。

「え?・・・えぇ!?・・・何これ?・・・・キス・・・キスされてるの?」

彰仁の頭の中はパニックになっていたが、その優しくも情熱的な湊のキスに、全身が痺れて力が入らない。
湊の舌が彰仁の少し厚みのある唇をなぞるように舐め、口腔内に侵入しあちこち舐めまわして舌を絡める。
彰仁が放心状態になっている間に、いつの間にかソファーに押し倒されていた。
そっと唇が離れ、彰仁が恐る恐る瞼を開くと、湊が真上から彰仁を見つめていた。いつもは涼しげなその切れ長の目が少し潤んで熱を帯びている。

彰仁 「・・・なん・・で?」
湊  「・・・」

長い髪がパラリと落ちて、彰仁の頬をくすぐる。
湊は何も答えず、指先で彰仁の唇をなぞると、またその唇を塞いだ。





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【別冊:まだ見ぬ景色】2 

~その頃、このふたりは・・・?~


<湊のベッドルーム> ←をクリックすると本編の「その頃」が開きます。

GWの真っただ中、ライブハウス・スイートポテトで、彰仁がLumie`re (リュミエール)の正式メンバーになった記念のライブをした日。
ベースのヘルプにバンドを解散したばかりの暁を迎えて、東京に出てきてからずっと封印されていた、Lumie`re (リュミエール)にとって意味のある曲。『Believe In Future』を演奏することになっていたが、直前のリハで光と暁が喧嘩をしてしまい、暁はさっさと帰ってしまった。
ところが、偶然そこに居合わせたライブハウスでアルバイトをしている紫苑が、なぜかその曲を知っていて見事な演奏をしてみせた。
紫苑のヘルプで無事にライブを終え、いつものように湊のマンションで打ち上げをすることになった。もちろん紫苑も誘って。
そして、いつものように光と彰仁はリビングで酔いつぶれ眠ってしまったのだ。
湊は光を紫苑にまかせ、彰仁を担いできて自分のベッドに寝かせた。
湊のベッドはキングサイズだ。寝像の悪い晴樹と光から大事な天使を守るため、湊はいつも彰仁を担いできて自分のベッドで寝かせていた。

湊は昨年の文化祭で出逢った彰仁を、天使のように素直で綺麗だと一目で気に入っていた。
しかし、彰仁はノンケで彼女持ちだった。
湊はゲイだけれど、そんな彰仁を無理やり自分に向かせようとは思っていなかった。
恋に対して少し臆病になっていたのかもしれない。
そんな湊だが、酔って眠ってしまった彰仁を腕に抱きしめて眠るひとときは、至福の時間だった。
彰仁も最初は驚いたようだったが、今ではそれにすっかり慣れたようで湊の腕の中ですやすやと幸せそうに眠っている。

彰仁は酔いつぶれてひとしきり眠ると、明け方目が覚めた。
いつものように、湊のベッドの上で、湊に抱きしめられていた。

「祥くん・・・まつ毛長い。こんなに綺麗で細いのに俺を担いで運んでくるって凄いよな。」

彰仁は、湊に悪いなという気持ちもあるけれど、実はその腕の中で目覚める時、いつも温かい気持ちになっていた。

「祥くんの匂いだ・・・」

彰仁は湊の胸に顔を埋めて目を閉じる。
すると、湊が目を覚ました。

湊  「ん・・・アキ?起きたんか?」
彰仁 「うん。」
湊  「二日酔いは大丈夫?」
彰仁 「良く眠れたから大丈夫。」

湊は彰仁の顔にかかる髪を指先で掻きあげてその顔を覗き込む。

湊  「正式メンバーになった記念のライブはどうやった?」
彰仁 「嬉しかった。・・・やっぱり、サポートとは気持ちが違う。」
湊  「そうか。よかったな。・・・そういえば昨日のライブ、彼女来とらんかったな?」
彰仁 「ん?・・・別れたんだ。」
湊  「まじか?・・・なんで?」
彰仁 「大学別々になって、・・・あっちで好きな人出来たらしい。」
湊  「なんやそれ、随分心変りが早いなぁ。・・・大丈夫か?」
彰仁 「うん・・・意外と平気。今は祥くんたちとバンドやってる方が楽しいし。」
湊  「そうか。僕は心変りせぇへんで。」
彰仁 「え?」

湊は彰仁の額にチュッとキスをすると、驚く彰仁を腕の中に閉じ込めた。

湊  「みんなまだ寝とるから、もう少し寝よ。」

彰仁は湊の腕の中で赤面していた。
心臓は早鐘のように鳴り、湊に聞こえはいないかと心配になった。

「ふたりでいる時の祥くんのスキンシップはいつものことじゃないか。・・・なんで俺、こんなドキドキしてるんだろ。」

湊は彰仁を抱きしめながら、心の奥に燃えている熱いものを感じていた。
彰仁はノンケで彼女がいる。ということを最大のブレーキにして、心の奥深くに押し込んでいた想いが、熱をもって溢れだそうとしていた。

「あかん。・・・天使に手を出したらあかん。・・・アキはノンケなんや。傷つけたらあかんねん。」

湊は自分の心に強く念じ、瞼を閉じた。




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【別冊:まだ見ぬ景色】1

~その頃、このふたりは・・・?~


<湊と彰仁の出逢い> ←をクリックすると本編の「その頃」が開きます。

光がリーダーで活動しているロックバンドLumie`re (リュミエール)は1年ほど前、ボーカルの百瀬光、ギターの棚橋晴樹(たなはし はるき)、キーボードの湊祥一郎(みなと しょういちろう)の3人で大阪から上京し、同じ大学に入って結成された。
Lumie`re (リュミエール)には、ドラムとベースというリズム隊がいない。
東京に出てきて真っ先に始めたのが、リズム隊探しだ。
3人とも私立花柳学園の芸術学部に所属し、音楽を専攻していた。その為、まわりには楽器をやっている学生も少なくない。ところが、なかなか自分達の音楽性と合う人物と出逢うことが出来ずにいた。
メンバーは、学園内にとどまらず、都内のライブハウスにも足しげく通っていたが、半年が過ぎてもなかなか見つからなかった。

そして、秋と言うにはまだだいぶ残暑の厳しいある日、校門を出ると高等部の学生が配っていた文化祭のチラシを何の気なしに受け取った湊は、そのチラシの中に何組かのバンド演奏もあるというところに目をとめた。

「高校生のバンドが文化祭でやるんやから、たかが知れとるけどなぁ。もうやけくそや。ちょっと覗いてみようかな。」

その日、特に予定のなかった湊は、ふらふらと高等部の体育館に足を向けた。
到着すると、すでに演奏は始まっていた。

「体育館でライブやなんて、音は最悪やな・・・。まぁ、しゃあないか。」

体育館に用意されたパイプ椅子に、長い脚を組んで腰掛けると、あまり期待もせずにステージを見ていた。
やはり高校生だ。女の子にもてたいとか、演奏テクニックを披露したいとか、目立ちたいとか・・・そんな心の内が見えてきそうなメンバーばかりだった。
そして、とうとうラストのバンドになってしまった。

「やっぱり時間の無駄やったかな・・・」

そんなことを思いながらステージに目を向けると、カウントを取りドラムを叩きだした男の子に、その視線は釘づけになった。

「なんや・・・東京にもちゃんと天使がおるやんか・・・」

それが、城田 彰仁だった。
高校3年生だった彰仁は、まだあどけなさを存分に残した童顔で、決して技術が高いとは言い難いが、心地良いリズムを刻んでいた。
そして、格好をつける為か指先でスティックをくるりと回すが、そこに神経が集中していて目線もスティックに向けられ、リズムも崩れるというありさまだった。

「ぷぷっ。ちっとも格好ついとらんやんか。演奏もまだまだやな。・・・そやけど、まだ原石なだけや。間違いなく光る。」

湊は確信し、素早くリサーチをすると演奏終了後の彰仁に声を掛けた。

湊  「城田彰仁くん?」

演奏終了後、メンバーと談笑していた彰仁は、ふいに後ろから声を掛けられて振り向いた。
そこには、長身で色白でストレートロングの黒髪を風に靡かせた湊祥一郎が立っていた。

「うわぁ。王子様みたいな人だ・・・綺麗だな。」

彰仁は、ぽかんと口を半開きにして湊を見上げた。

彰仁 「え?・・・あ、はい。」
湊  「僕、ここの大学行ってる湊洋一郎言います。君を僕らのバンドにスカウトしたいんやけど、どうやろ?」
彰仁 「は!?」

彰仁は自分のドラムが、それほど上手くないことは自分で良くわかっていた。
ただ、小学校の運動会で太鼓を叩いて褒められたことが嬉しくて鼓笛隊に所属し、中学の時は吹奏楽部で打楽器を担当していた。そして高校に入り、ドラムを始めたのだ。叩くことが好きで、独学でやっているので、まさか大学生のバンドにスカウトされるなどと想像をしたこともなかった。しかも、見ず知らずの今日初めて会った王子様みたいな人に。

彰仁 「あの・・・からかってますか?」
湊  「何言うてんねん。本気や。」
彰仁 「俺、そんな上手くないし・・・」
湊  「上手いからスカウトするんやない。君が天使やからや。」
彰仁 「て、天使!?」

彰仁は、まんまるの目を見開き湊をじっと見つめて唇を一文字にすると、そのまま踵を返してスタスタ歩きだした。

「絶対この人、俺の事馬鹿にしてるんだ。じゃなきゃ頭がおかしい。」

湊は慌てて彰仁の後を追うと、回り込んで両肩を掴んだ。

湊  「ごめん。つい心の声が出てしもた。そやけどふざけとらんし、本気や。とにかく一度僕たちの演奏聞きに来てほしい。」

湊は少し屈んで目線を合わせると、彰仁のくりくりとしたまあるい目を覗き込んで、真剣に話した。
彰仁は無言で湊を見つめる。

湊  「スイートポテトっていうライブハウス知っとる?」
彰仁 「・・・はい。」
湊  「そこで、今度の土曜日にライブするから。リズム隊がおらんで打ち込みやけど、聞いてほしいねん。受付で名前言うてくれたら入れるようにしとくから。」
彰仁 「・・・わかりました。」
湊  「ほんまに!?・・・よかったぁ。」

湊は思わず彰仁を抱きしめていた。

彰仁 「あ・・・あの?」

湊が慌てて腕をほどくと、耳まで真っ赤にした彰仁が俯いている。

「あぁ、やっぱり天使や。・・・めっちゃ可愛いやん。」

湊は上機嫌でその場を去ったが、残された彰仁は暫くフリーズしたまま動くことさえ出来ないでいた。

「なんなんだ、あの人。王子様みたいに綺麗でかっこいいのに、なんだか変・・・。」



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