紫苑は翌朝早く、光がまだ眠っている間に家を出た。
玄関で靴を履いていると柚子がトコトコと見送りに来て、紫苑を見上げた。
紫苑 「もう、ご主人様に心配かけるなよ?」
柚子 「にゃぁ~」
紫苑は柚子の喉元を指先で撫でてから、外に出た。
夕べの雷雨が嘘のように晴れていて、紫苑は青空を見上げてため息をつく。
紫苑 「俺にはちょっと眩しすぎるよ。」
湊もそうだったが、光もまたこの瞳を見て「綺麗だ」と言った。
紫苑が今まで出逢ってきた人達は、紫色の瞳を見るとほとんどが一瞬怪訝な顔をする。
そして見てはいけないものをみてしまったかのように視線を合わせなくなる。
そうでない場合は興味本位でずかずかと心の中まで土足で踏み入ってきて、まるで自分の手柄のように他人に自慢をしたりする。
どっちにしても、紫苑は異物と認識されるのだ。
自分のことなんて今まで誰にも話したことはなかったのに、夕べはなんとなくしゃべってしまった。そして光は自分の事のように怒り、泣いた。
みんなに愛されて生きてきた人だ。まっすぐで自分に正直で・・・。
俺とは違いすぎる。・・・眩しすぎるんだ。
少し、距離を置こう。光とも、Lumie`re (リュミエール)とも。
これ以上深入りしたら、きっと傷つけてしまう。
大切な人が自分のせいで傷つくのを見たくない。
・・・大切な人?
紫苑は、自分で今思ったことに驚いていた。
ピンポーン
紫苑 「紫苑です。」
湊 「どうぞ~」
紫苑は、昨日スイートポテトに置いたままにしていたベースを預かってくれているというので、湊の家に立ち寄った。
玄関を入ると、湊は長いストーレートの髪を一つに束ねて黒メガネをかけていた。
なんだかいつもと雰囲気が違う。
紫苑 「朝早くにすみません。」
湊 「あぁ、起きてたから全然ええねん。上がって。」
紫苑 「あの?」
湊 「お茶くらい飲んでいき。昨日のももんことも聞きたいしな。」
紫苑 「あ、・・・はい。おじゃまします。」
湊は馴れた手つきで香りのいい紅茶を入れる。
湊 「もも、どうやった?」
紫苑 「見つけた時は過呼吸になっていて、顔も真っ青だったし意識も朦朧としてました。正直焦ったっていうか・・・。」
湊 「・・・そうか。ほんまありがとうな。」
紫苑 「いえ。」
湊 「・・・ももな、自分がクリを死なせてしまったと思い込んでんねん。自分がクリをタクんとこ行かせなければ死なんかったって。」
紫苑 「それはっ・・・あの人が引きとめても引きとめなくても、行くと決めて行動したのは、その・・・クリさんであって、あの人のせいではない。」
湊 「うん。僕もそう思うねん。・・・ももの気持ちが自分と同じになるまで待てんかったクリはタクと寝た。そんなんタクにしてみたら、もう手放したなくなるやん。ももんことがほんまに大事やったら、その手離したらあかんかったんは、クリや。」
紫苑 「・・・」
湊 「タクが、クリを連れていってしもたんや。・・・もものせいやない。」
紫苑 「でも、あの人は・・・自分を責め続けてる?」
湊 「・・・そうや。雷鳴ると心のコントロールできんようになるんやろな。」
紫苑は紅茶を一口コクリと飲んで、ため息をついた。
紫苑 「あの・・・俺、しばらく練習休ませてもらませんか?」
湊 「え?・・・急にどないしたん?」
紫苑 「次のライブ前には復帰しますので。」
湊 「・・・まぁ、無理は言えんしな。サポート続けてくれるんやったら・・・。」
紫苑 「すみません。」
これでいいんだ。この人たちとこれ以上深く付き合ってはいけない。
俺の人生に巻き込んではいけないんだ。
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