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響瑠

Author:響瑠
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【別冊:まだ見ぬ景色】1

~その頃、このふたりは・・・?~


<湊と彰仁の出逢い> ←をクリックすると本編の「その頃」が開きます。

光がリーダーで活動しているロックバンドLumie`re (リュミエール)は1年ほど前、ボーカルの百瀬光、ギターの棚橋晴樹(たなはし はるき)、キーボードの湊祥一郎(みなと しょういちろう)の3人で大阪から上京し、同じ大学に入って結成された。
Lumie`re (リュミエール)には、ドラムとベースというリズム隊がいない。
東京に出てきて真っ先に始めたのが、リズム隊探しだ。
3人とも私立花柳学園の芸術学部に所属し、音楽を専攻していた。その為、まわりには楽器をやっている学生も少なくない。ところが、なかなか自分達の音楽性と合う人物と出逢うことが出来ずにいた。
メンバーは、学園内にとどまらず、都内のライブハウスにも足しげく通っていたが、半年が過ぎてもなかなか見つからなかった。

そして、秋と言うにはまだだいぶ残暑の厳しいある日、校門を出ると高等部の学生が配っていた文化祭のチラシを何の気なしに受け取った湊は、そのチラシの中に何組かのバンド演奏もあるというところに目をとめた。

「高校生のバンドが文化祭でやるんやから、たかが知れとるけどなぁ。もうやけくそや。ちょっと覗いてみようかな。」

その日、特に予定のなかった湊は、ふらふらと高等部の体育館に足を向けた。
到着すると、すでに演奏は始まっていた。

「体育館でライブやなんて、音は最悪やな・・・。まぁ、しゃあないか。」

体育館に用意されたパイプ椅子に、長い脚を組んで腰掛けると、あまり期待もせずにステージを見ていた。
やはり高校生だ。女の子にもてたいとか、演奏テクニックを披露したいとか、目立ちたいとか・・・そんな心の内が見えてきそうなメンバーばかりだった。
そして、とうとうラストのバンドになってしまった。

「やっぱり時間の無駄やったかな・・・」

そんなことを思いながらステージに目を向けると、カウントを取りドラムを叩きだした男の子に、その視線は釘づけになった。

「なんや・・・東京にもちゃんと天使がおるやんか・・・」

それが、城田 彰仁だった。
高校3年生だった彰仁は、まだあどけなさを存分に残した童顔で、決して技術が高いとは言い難いが、心地良いリズムを刻んでいた。
そして、格好をつける為か指先でスティックをくるりと回すが、そこに神経が集中していて目線もスティックに向けられ、リズムも崩れるというありさまだった。

「ぷぷっ。ちっとも格好ついとらんやんか。演奏もまだまだやな。・・・そやけど、まだ原石なだけや。間違いなく光る。」

湊は確信し、素早くリサーチをすると演奏終了後の彰仁に声を掛けた。

湊  「城田彰仁くん?」

演奏終了後、メンバーと談笑していた彰仁は、ふいに後ろから声を掛けられて振り向いた。
そこには、長身で色白でストレートロングの黒髪を風に靡かせた湊祥一郎が立っていた。

「うわぁ。王子様みたいな人だ・・・綺麗だな。」

彰仁は、ぽかんと口を半開きにして湊を見上げた。

彰仁 「え?・・・あ、はい。」
湊  「僕、ここの大学行ってる湊洋一郎言います。君を僕らのバンドにスカウトしたいんやけど、どうやろ?」
彰仁 「は!?」

彰仁は自分のドラムが、それほど上手くないことは自分で良くわかっていた。
ただ、小学校の運動会で太鼓を叩いて褒められたことが嬉しくて鼓笛隊に所属し、中学の時は吹奏楽部で打楽器を担当していた。そして高校に入り、ドラムを始めたのだ。叩くことが好きで、独学でやっているので、まさか大学生のバンドにスカウトされるなどと想像をしたこともなかった。しかも、見ず知らずの今日初めて会った王子様みたいな人に。

彰仁 「あの・・・からかってますか?」
湊  「何言うてんねん。本気や。」
彰仁 「俺、そんな上手くないし・・・」
湊  「上手いからスカウトするんやない。君が天使やからや。」
彰仁 「て、天使!?」

彰仁は、まんまるの目を見開き湊をじっと見つめて唇を一文字にすると、そのまま踵を返してスタスタ歩きだした。

「絶対この人、俺の事馬鹿にしてるんだ。じゃなきゃ頭がおかしい。」

湊は慌てて彰仁の後を追うと、回り込んで両肩を掴んだ。

湊  「ごめん。つい心の声が出てしもた。そやけどふざけとらんし、本気や。とにかく一度僕たちの演奏聞きに来てほしい。」

湊は少し屈んで目線を合わせると、彰仁のくりくりとしたまあるい目を覗き込んで、真剣に話した。
彰仁は無言で湊を見つめる。

湊  「スイートポテトっていうライブハウス知っとる?」
彰仁 「・・・はい。」
湊  「そこで、今度の土曜日にライブするから。リズム隊がおらんで打ち込みやけど、聞いてほしいねん。受付で名前言うてくれたら入れるようにしとくから。」
彰仁 「・・・わかりました。」
湊  「ほんまに!?・・・よかったぁ。」

湊は思わず彰仁を抱きしめていた。

彰仁 「あ・・・あの?」

湊が慌てて腕をほどくと、耳まで真っ赤にした彰仁が俯いている。

「あぁ、やっぱり天使や。・・・めっちゃ可愛いやん。」

湊は上機嫌でその場を去ったが、残された彰仁は暫くフリーズしたまま動くことさえ出来ないでいた。

「なんなんだ、あの人。王子様みたいに綺麗でかっこいいのに、なんだか変・・・。」



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