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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
<妄想>です。
実在する地名・人名・団体名が登場しても、それは偶然ですので、まったく関係ありません。
また、ここに記されている内容はオリジナルですので
著作権は作者にあります。勝手に使用しないでくださいね。
【18禁表現を含みます】


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<温泉・夕>
旅行へ出かける日。俺は朝からそわそわしていた。
望の提案で、家の最寄り駅から3つほど先の駅にある公園で待ち合わせをした。
望と会うのも久しぶりなら、外でこうして会うのは初めてだ。
車で待ち合わせ場所に到着すると、運転席を降りて周りを見渡した。
すると、ブランコから飛び降りて走ってくる望が見えた。

望  「お兄ちゃん!」
宗一郎「すまん、待たせたか?」
望  「うんん。少し早めに来たんだ。買い物とかしたかったから。」

望は佳苗が綺麗に手入れをして伸ばしているストレートの黒髪を後ろに束ね、帽子をかぶっている。黒を基調にした細身のラインでジャケットを着こなし、まるでコミックから飛び出したかのような美少年だ。
身内のひいき目なのか、色ぼけなのか、思わず見とれてしまった。

望  「・・・?何か・・・変?」
宗一郎「い、いや、とてもよく似合ってる。パジャマ姿や寝巻姿ばかりしかみたことなかったからな。」
望  「そうだね。こんな風に外で会うのも初めてだよね。」
宗一郎「あぁ。なんだかちょっと緊張するな。」
望  「ふふっ。俺も」

珠絵の話では、望はずっと悩んで部屋に籠っていたというが、今日はとてもリラックスしているように見える。何か答えを見つけたのだろうか?

俺たちはドライブを楽しみながら紅葉が見ごろの北を目指した。
途中、動物園とは名ばかりの猿山でえさやりをしたり、すっかり荒野と化したアミューズメントパークに立ち寄り、西部劇のショーを見たり、女の子とのデートならちょっと引かれてしまいそうだが、望はとても楽しそうだった。俺はそんな望を見ているだけで心が温かくなった。
そして、夕陽に照らされた木々が更に彩りを増した山を登り、シーズン中だというのに少し静かな宿に到着した。
この宿は、クリスマスに夢の国のホテルの宿泊を譲ってくれた友人の紹介だ。
お忍び宿で角界の著名人や金持ちが愛人と宿泊するような宿だそうだ。
あまり、人目につかず静かでゆっくりできる宿を紹介してくれと言ったら、この宿を予約してくれた。あいつは本当にマメな男だな。
部屋に案内されると、そこはとても落ち着いた雰囲気の和室だった。
窓の外を見ると山に囲まれていて色づいた木々が美しい。下をのぞけば沢が流れている。
風に揺れる葉の擦れ合う音と沢の流れる水音だけが聞こえるとても静かな空間だ。
防音というわけでもないのだろうが、隣室や廊下の話し声なども聞こえない。
ここなら、ゆっくりできそうだ。

望  「すっごく静かだね~」

女将が部屋を出ると、望がほっとしたように声を発する。
緊張していたのだろう。

宗一郎「あぁ、気に行った?」
望  「うんっ!」
宗一郎「早速、温泉にでも入るか?貸切の露天風呂に入れるぞ。」
望  「ほんとー?すごいね。早く入りたい。」

望は満面の笑顔だ。貸切風呂の予約までしてくれた友人に感謝だな。
ふたりは浴衣に着替えて風呂に向かった。



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<宗一郎の部屋・昼>
十五夜の夜、妹が生まれた。月子と名付けられた。
今さら妹というのも、なんだか変な気分だが、花柳家もこれで安泰なのかな?
母さんは月子につきっきりで、もう佳苗には目もくれない。
今年の初めに、佳苗ではなく望だと言われて自分の子供に切りつけたことなど、まったく覚えていないようだ。

佳苗は高校を卒業したら留学したいと言いだした。
イギリスでフラワーアレンジメントの勉強がしたいそうだ。
随分と成長したものだ。佳苗自身の変化なのか珠絵やアンや、そして望の影響なのかはわからない。
もう、俺は佳苗に何もしてやれない。
夏に墓参りに行ってから、俺は少し佳苗たちと距離を置こうと思い、家を空けた。
その間に佳苗は自慰もできるようになっていた。
定期的に神田先生のところで田崎先生の治療は受けているが、最近は特に変化もなく他の人格は出てこないという。

望はどうしているのだろうか?
このまま、珠絵やアンとともに部屋に閉じこもってしまう気なのだろうか?
たとえ、そうだとしても俺にはどうすることもできない。
俺は望に対して兄弟愛以上の感情を持っている。薄々感じていたけれど気づかないようにしてきた自分の心の奥にあるもの。
もう、それに気づいてしまっていた。封印しなければならない感情。
だから、これ以上、望の中で起きていることに関わってはいけないのだと思うようになっていた。

俺は、じいさんの実家を継いでいる大叔父の養子になり花柳家を出ることにした。
もう30だ。本来なら結婚して婿養子になっていてもいい年だ。
だが、結婚する相手もいなければその気にもならない。
夏に必死で仕上げたレポートが認められて・・・まぁ、じいさんの推薦もあるのだが、
LA.の大学で非常勤講師をすることになった。
勤務は年明けからだが、住むところも全て用意されているらしいので、クリスマス前に日本を発ってしまおうと考えていた。

そんなわけで引っ越しの準備をしていると、開いていたドアに人影が見えた。
顔を上げると、そこには珠絵が立っていた。

珠絵 「お久しぶり。」
宗一郎「あぁ、久しぶりだな。どうしたんだ?」
珠絵 「・・・相談したいことがあって。」
宗一郎「何か問題か?」
珠絵 「問題というか・・・アメリカに行く前に望と会ってもらえないかしら?」

俺が、望を避けて旅立とうとしていることを、まるで見透かしているようだ。

宗一郎「どうして・・だ?」
珠絵 「・・・もう、会えなくなってしまうかもしれないから。」
宗一郎「・・・」

それは、想定していたことだ。
人格の統合がされるのか、それとも強くなった佳苗が望として生きていくのか。
どちらにしても、いままでと同じではいられなくなっていくことは容易に想像できる。
俺も、望に会いたい。しかし・・・。

珠絵 「・・・。会いたく・・・ない?」
宗一郎「いや。・・・会っていいのかなって思って。」
珠絵 「今、望が一番不安定になっているわ。・・・私のせいもあるけど。」

珠絵が最初の望の人格に対し、ショウと名付け別人格としてしまったことを言っているのだろう。ショウであった時は、望を演じ佳苗を演じて生きてきた。
俺と出逢ってショウと名乗ってからも、望と佳苗を守っているという自信があった。
だが、本当は自分が最初の人格であったことを知り、自分が何者なのかわからなくなってしまったようだという。
更に、表にでている佳苗は自分が望だということを受け入れ始めている。
佳苗が望になってしまったら、自分は必要ないと思っているみたいだと。

宗一郎「俺に、・・・俺に何かできるのかな?」
珠絵 「あなたにしか、できないんじゃない?」
宗一郎「そう・・・だろうか?」
珠絵 「随分、弱気になったものね。あなたも、もう自分は必要ないとか思っているわけ?」
宗一郎「・・・」

相変わらず、珠絵は鋭くて容赦がない。

宗一郎「ふたりだけで、会えるか?」
珠絵 「そこは、私にまかせて。佳苗にも協力してもらう。」
宗一郎「俺が・・・いや、なんでもない」

俺が、望を手放したくなくなってしまったら?
そんなこと、思ってはいけないんだ。でも、正直自信がない。
望みを自分だけのものにしたいと、思ってしまうかもしれない。

珠絵 「あなたと、望の思い通りでいいのよ。望の身体なんだから望の好きにしたらいい。」

まったく、珠絵には全て見透かされているようで恐ろしくなる。

珠絵 「みんなと相談して、日程を決めるわ。どこか旅行でも行ってくれば?」
宗一郎「あぁ、いいな。温泉でも行きたい。」
珠絵 「遊園地とかじゃなくて、温泉ってところがおじさんっぽい。」

そう言って、珠絵は声を出して笑った。
望は遊園地の方が良いだろうか?いや、きっと賑やかな所よりも、ゆっくりのんびりできるところの方が好きなはずだ。
何の根拠もないが、俺はそう思った。



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<車・昼>
佳苗が初めて無断外泊をした。
俺は、驚いたが少し嬉しくもあった。
佳苗は賢い子だ。馬鹿なことをしたりはしないだろう。
きっと、自分の中で起きていることを受け入れようとしているのだ。

明け方、佳苗の携帯電話からメールが届いた。
珠絵だ。居場所を知らせてきた。佳苗は心配いらないと、自分たちがついているからと。
そうだな。そうやって協力し合って成長していくべきなんだ。
もう、俺がしてやれることはあまりないのかもしれないと、今度は少し寂しくなった。
2、3日は知らんぷりしておこうかと思っていたのだが、だいぶお腹が大きくなってきた母親の美鈴がうるさいので、迎えに行くことにした。
佳苗よりも成長しなければならないのはこの人なのだと思っている。
まぁ、もうすぐ女の子が生まれれば、佳苗が実は望だと知っても取り乱すこともないだろう。

別荘に到着すると、佳苗と美和ちゃんしかいなかった。
来る途中、山を登り始めたところですれ違った大きな4駆自動車に乗っていたのが涼君と隆哉くんだったようだ。
佳苗を連れて帰ると言うと、美和ちゃんも一緒に帰るというので3人で帰ることにした。
帰りの車中は、終始ガールズトークとやらで盛り上げっていて俺は透明人間に徹していた。
こうして見ていると、佳苗も普通の女子高生に見える。
美和ちゃんを送り届け、佳苗とふたりきりなると、車中はシンと静まり返った。

宗一郎「どこかで食事でもして帰るか?」
佳苗 「ううん。・・・ねぇ、お兄様、私、花柳家のお墓参りをしたい。」
宗一郎「!?・・・墓?まっ、まだお盆には早いぞ。」

俺は慌てた。佳苗は花柳家の墓に行ったことがない。そりゃそうだ。
そこにある石碑には、花柳家代々のご先祖様の名前とともに、花柳佳苗の名前が刻まれているのだから。
花柳家の墓は、一般の人は入れないようになっている。お寺の奥、鍵の掛った門を開けて入るのだ。

佳苗 「大丈夫よ、お兄様。私、真実をきちんと確かめたいだけ。」
宗一郎「真実・・・?」
佳苗 「私が佳苗ではなくて望であるという真実を、ひとつひとつ受け入れていきたいの。」
宗一郎「・・・。そうか、わかった。」

俺は、花柳家の墓があるお寺へ向かった。
住職にお願いをして門の鍵を開けてもらった。
母さんはもちろん、家族は佳苗が亡くなってから、ほとんど墓には来ていない。
誰もが佳苗が亡くなったことを受け入れられていなかったのかもしれない。
それでも、綺麗な花が生けてある。
御布施をして手入れをしてもらっているのだろう。
ふたりで墓前に立ち、花を生けて線香を手向ける。
佳苗は、まるで確認をするように、石碑に刻まれた自分の名前を指でなぞって、深呼吸をした。
そして、ゆっくりと手を合わせると目を閉じた。
しばらくして、目を開きふりかえると、笑顔で口をひらく。

佳苗 「花柳 佳苗 ちゃんは、ここに眠っているのですね。私は、花柳 ・・・望。」
宗一郎「・・・あぁ、そうだ。・・・すまない。俺のせいだ。」
佳苗 「お兄様のせい?」
宗一郎「佳苗が亡くなった時、取り乱した母さんに傷つけられたお前が可哀そうで・・・佳苗になれと言った。そしてお前は、佳苗になった。」

俺はあの時の魂の宿らないような望の蝋人形のような表情を思い出していた。
しかし、佳苗はニコリとほほ笑んだ。

佳苗 「それは違います。誰かに別人になれと言われたからと言ってなれるものではありません。お兄様に言われたからではなく、自分でこうなることを選んだのです。」
宗一郎「・・・?」
佳苗 「きっと、あの時の私が、悲しかったり辛かったりした気持ちを閉じ込めて、佳苗を押し出したのです。お兄様のせいではありません。」
宗一郎「・・・お前は、いつからそんなに強くなったのだ?」
佳苗 「ここに、望ちゃんも珠絵さんもアンさんもいます。力を合わせれば何でもできそうな気がして・・・。もちろん、少しずつですけど。」

そう言ってまた、微笑んだ。
あぁ、本当にもう、俺がしてやれることは何もないのかもしれない。



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ドアが開くと、そこに立っていたのは見知らぬ女だった。
いや、佳苗に良く似た知らない女だ。
その女は俺を見ると、「しまった」という顔をした。

宗一郎「誰だ?」
女  「流石、お兄様ね。私が佳苗じゃないことすぐにわかるのね。」
宗一郎「当たり前だ。」
女  「まぁ、いいわ。そろそろあなたと話をしなければと思っていたところだから。」
宗一郎「・・・?」
女  「私は、珠絵。あっ、私は最初からこの身体のなかにいたのよ。というか、全員そうだけどね。」
宗一郎「どういうことだ?」
珠絵 「その、言葉の通りよ。まったくあなた達が余計なことをしてくれたお陰で私の計画が狂ってしまったわ。あなた達が望だと思っている子は、アン。私が封印したのに、わざわざ起こしてくれちゃって知恵までつけさせて、迷惑だわ。」
宗一郎「いや、でもショウが望だと言っていたぞ。コントロールしていたのも自分だと。」
珠絵 「だから!それは私がそう思わせていたの。じゃないと生きていられないから・・・。」
宗一郎「どういうことだ? 」
珠絵「仕方ないわね。あなたには協力もしてもらいたいし、全て説明するわ。」

そう言って、望の身体の中で起きていた今までのことを説明してくれた。

そもそも望の中には生まれた時から、望と佳苗と珠絵とそしてアンがいたという。
生まれた時から人格というものがあるのかどうか俺には謎だが。
更に、3歳で亡くなった佳苗にもいくつかの人格があったのではないかという。
望のオリジナルは望で。その望というのはショウのことだ。
佳苗が亡くなった時の美鈴の言葉にショックを受けたショウは、いや望は危うくアンに身体を乗っ取られるところだったのだという。
そこで珠絵は、アンを眠らせ封印し、佳苗を外にだした。
望には自分はショウという人格でこれから佳苗の窮地にはそれを助け、眠っている望も含めて自分でコントロールしていくようにと指令を出したそうだ。
佳苗の苦しみや痛みは自分のものとして乗り越える力をつけさせるための試練だったと。

珠絵 「望はうまくやっていたわ。佳苗を助け成長し、あのじじいとバッタリ会った時もかなり取り乱したけど、あなたのお陰で平静を保てた。だけど、アンに要らぬ知識を与えたせいで、また危ない目にあってしまった。」
宗一郎「危ない目?」
珠絵 「今年の初めの手首を切られた事件よ。」
宗一郎「切られた?・・・やっぱり、あれは自分で切ったわけじゃないんだな?」
珠絵 「そうよ・・・自分で切っても良かったのかもしれないけどね、アンは。」
宗一郎「・・・?」

美鈴の言葉に傷つき、気を失った佳苗に替って望が外に出ようとしたところを邪魔され、争った挙句、アンが身体を支配した。
そして、美鈴に自分は佳苗ではなく望だと言ったそうだ。
それを聞いた美鈴は突然表情を変え「それならいらない」と言って、近くにあった花バサミで佳苗の手首を切りつけたという。
アンは自ら手首を出したそうだが、花バサミだったお陰で、傷はあまり深くならなかったそうだ。刺されなくてよかった。
俺はもう、頭が混乱して何が何だかわからなくなっていた。

珠絵 「アンは闇なの。心の闇。邪魔なだけだから封印したのに!」
宗一郎「ちょっと待て。人間誰しも心に闇くらいある。嫉妬や妬みやネガティブな考えや・・・だけど、それにうまく折り合いをつけて成長していくんじゃないのか?」
珠絵 「はぁ?そんなものないほうがいいに決まっているじゃない。不要なものは切り捨てるのよ。」
宗一郎「ばかかっ?切り捨てられるわけないだろう。自分の心だぞ。」
珠絵 「別々よ。アンは要らない子。少し時間がかかりすぎたけど望がもうちょっと強くなれば、佳苗もいらない。」

パチンッ!
俺は、思わず珠絵の頬を平手打ちしていた。
怒りで顔を赤くした珠絵は俺を睨みつける。

宗一郎「じゃぁ!佳苗は何の為に今まで一生懸命生きてきたんだ?望だってそうだ。佳苗が辛い時にしか外に出られない。痛みや苦しみを担当して成長するための試練とか言うけど、一人の人間には辛いことも幸せなことも両方あるんだ。だから生きていける。違うか!?」
珠絵 「・・・」
宗一郎「俺は、望に対しても佳苗に対しても怒ったことはなかった。まして手を上げることなど。ふたりとも良い子だ。・・・そうだ、良い子すぎるんだ。」
珠絵 「・・・何、・・・言ってるの?」
宗一郎「望にも佳苗にもその闇がなさすぎるんだ。お前が封印したからな。本当はその闇も受け入れたうえで、お前のような正義感をぶつけて闘わせて自分なりに答えを出していくべきなんだ。望自身が。」
珠絵 「・・・」
宗一郎「アンが、母さんに自分は望だと言ったのだろう?それは、望の本心なんじゃないのか?自分は望だって、母親に言いたかったんじゃないのか?佳苗が死んだ時も、そのアンに乗っ取られたとしても、たかが3歳だ。大声で泣いたり、暴れたりするくらいだろ?本当はその方が良かったんじゃないのか?」

俺は、望の気持ちを考えると、涙があふれてきた。
望なのに佳苗として生きなければならなかった、その望の心がどんなに痛かっただろうか。

宗一郎「珠絵。俺を叩け。さっきのお返しにひっぱたいてくれ。」
珠絵 「はっ?」
宗一郎「俺も、お前と同じだから。」

そうだ。俺も逃げた。
望を守ると言いながら、守るどころか閉じ込めて佳苗になれと言ったのだ。
本当はあの時、母さんに怒るべきだったんだ。傷ついた望のかわりに。

パチンっ!

目が覚めるような、珠絵の特大平手打ちが飛んできた。
確かに俺よりだいぶ身体は小さいが、そんなジャンプして叩かなくても・・・。

宗一郎「・・・いって・・・ぷっ・・・・ふははははははっ」

俺はなんだか嬉しくて大声で笑い出した。
望や佳苗なら、こんな風に俺をひっぱたくこともいないだろう。
すると、珠絵もつられて笑い出した。

宗一郎「お前も、今まではそんな感情をあらわにする性格じゃなかったんだろ?確かにアンを目覚めさせたお陰で、みんなに影響がでているのかもしれないな。」
珠絵 「そうね。佳苗も望にやきもちを焼いたりしている。望も・・・そう。望はきっと自分は望だって言いたいのかもしれない・・・」
宗一郎「いい子でいることだけが全てじゃない。望も佳苗も珠絵もそしてアンもみんなで協力し合ってこれからどうするか話し合ってみてはどうだ?」
珠絵 「そうね・・・望と佳苗がどうしたいかだわ。私やアンはそもそも表に出ることはほとんどなかったのだから。」
宗一郎「みんなで考えろ。自分の心と向き合うってことは、きっとそういうことだ。」
珠絵 「わかった・・・もう少し時間をちょうだい。」



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<望の部屋・昼>
俺は久しぶりに望の部屋に入った。
佳苗が亡くなってから使われていなかったが、望が覚醒してからは、ショウが望に勉強や生活知識を教える時に使ったりしている。
この部屋の窓からは桜の木がよく見える。もうすっかり葉桜になってしまったが。
佳苗は高校3年生になった。
仲の良いお友達と今年も同じクラスになれたと喜んでいたな。
すっかり明るい性格になった佳苗だったが、正月明けのあの事件のことは、やはり思い出せないという。
母さんから、花柳家は恵理子に継がせると聞いてショックで気を失ったと言っていたから、確かに佳苗が自殺未遂をしたわけではないのだろう。
ショウなのか?望なのか?それとも・・・。
実は、クリスマスのあの夜から俺はショウと話をしていない。
佳苗の自慰を手伝う時も、佳苗自身だいぶ慣れてきたようでほとんど抵抗もしなくなったし、射精をする瞬間にショウと入れ替わるのは相変わらずだが、ショウはそのまま眠ってしまう。
そして、望もまたクリスマス以来顔を出していない。

それと・・・。
佳苗の事件の後、神田先生が気になることを言っていた。
左手首の傷は、自分でつけたものではないかもしれないと。
だとすると、いったい誰が何のために?
佳苗は誰かに狙われているのだろうか?
しかし、あれ以来何か危ない目にあったということもない。

そしてあの後、母さんの妊娠が発覚したのだった。
体外受精だが、お腹の子は女の子のようだという。
女の子が生まれてくれと、ただ祈るしかない。
これで、女の子が生まれれば恵理子がこの家に入ることもないだろうし、
何より、迷宮に入り込んでしまったかのような今の状態から解放されるのではないかと思えるのだ。
俺も佳苗も望も、そしてショウも。

そんなことを考えながらベッドに横になっていると、カチャリとドアが開いた。



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