<温泉・夕>
旅行へ出かける日。俺は朝からそわそわしていた。
望の提案で、家の最寄り駅から3つほど先の駅にある公園で待ち合わせをした。
望と会うのも久しぶりなら、外でこうして会うのは初めてだ。
車で待ち合わせ場所に到着すると、運転席を降りて周りを見渡した。
すると、ブランコから飛び降りて走ってくる望が見えた。
望 「お兄ちゃん!」
宗一郎「すまん、待たせたか?」
望 「うんん。少し早めに来たんだ。買い物とかしたかったから。」
望は佳苗が綺麗に手入れをして伸ばしているストレートの黒髪を後ろに束ね、帽子をかぶっている。黒を基調にした細身のラインでジャケットを着こなし、まるでコミックから飛び出したかのような美少年だ。
身内のひいき目なのか、色ぼけなのか、思わず見とれてしまった。
望 「・・・?何か・・・変?」
宗一郎「い、いや、とてもよく似合ってる。パジャマ姿や寝巻姿ばかりしかみたことなかったからな。」
望 「そうだね。こんな風に外で会うのも初めてだよね。」
宗一郎「あぁ。なんだかちょっと緊張するな。」
望 「ふふっ。俺も」
珠絵の話では、望はずっと悩んで部屋に籠っていたというが、今日はとてもリラックスしているように見える。何か答えを見つけたのだろうか?
俺たちはドライブを楽しみながら紅葉が見ごろの北を目指した。
途中、動物園とは名ばかりの猿山でえさやりをしたり、すっかり荒野と化したアミューズメントパークに立ち寄り、西部劇のショーを見たり、女の子とのデートならちょっと引かれてしまいそうだが、望はとても楽しそうだった。俺はそんな望を見ているだけで心が温かくなった。
そして、夕陽に照らされた木々が更に彩りを増した山を登り、シーズン中だというのに少し静かな宿に到着した。
この宿は、クリスマスに夢の国のホテルの宿泊を譲ってくれた友人の紹介だ。
お忍び宿で角界の著名人や金持ちが愛人と宿泊するような宿だそうだ。
あまり、人目につかず静かでゆっくりできる宿を紹介してくれと言ったら、この宿を予約してくれた。あいつは本当にマメな男だな。
部屋に案内されると、そこはとても落ち着いた雰囲気の和室だった。
窓の外を見ると山に囲まれていて色づいた木々が美しい。下をのぞけば沢が流れている。
風に揺れる葉の擦れ合う音と沢の流れる水音だけが聞こえるとても静かな空間だ。
防音というわけでもないのだろうが、隣室や廊下の話し声なども聞こえない。
ここなら、ゆっくりできそうだ。
望 「すっごく静かだね~」
女将が部屋を出ると、望がほっとしたように声を発する。
緊張していたのだろう。
宗一郎「あぁ、気に行った?」
望 「うんっ!」
宗一郎「早速、温泉にでも入るか?貸切の露天風呂に入れるぞ。」
望 「ほんとー?すごいね。早く入りたい。」
望は満面の笑顔だ。貸切風呂の予約までしてくれた友人に感謝だな。
ふたりは浴衣に着替えて風呂に向かった。
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