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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
<妄想>です。
実在する地名・人名・団体名が登場しても、それは偶然ですので、まったく関係ありません。
また、ここに記されている内容はオリジナルですので
著作権は作者にあります。勝手に使用しないでくださいね。
【18禁表現を含みます】


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光はここに到着したときに莉音が置いたハルのバイクにまたがってエンジンをかけた。紫苑はヘルメットを着けながら心配そうに光の顔をのぞき込む。

紫苑 「光さん。大丈夫?俺の足これくらい平気だから運転出来るよ。」
光  「大丈夫や。怪我しとったら、いざって時に踏ん張れんやろ。それにさっきまで気失ってた言うし。」
紫苑 「・・・だけど、・・・雷も・・・」
光  「わかっとる。」

雨は降り出していなかったが、大きな雷鳴が近くで何度も繰り返し響いている。時折真っ黒な雲の合間から稲光が地上を貫く。光はまぶたを閉じ、拳をぎゅっと握って深呼吸をした。

2年前のあの日、亮太と卓哉はどんなに待ってもライブ会場に現れることはなかった。だけど俺は、紫苑と一緒にあの場所に行く。みんなが待っているあの場所に必ず。

光  「紫苑、行くで。」

二人を乗せたバイクは一気に加速して街の喧噪に溶け込んでいった。あの約束の場所を目指して。


ライブ会場では、湊と晴樹、そして章仁が、そんな光と紫苑を信じて待っていた。
目の間には真っ黒な雲が広がり、雷鳴が聞こえている。
湊は胸の動機を覚えつつ、自分のスマフォに何度も不在着信していた見知らぬ番号にリダイヤルをした。
短い呼び出し音で出た相手は、拍子抜けするほど明るい声だった。

・・・『おっそーい!すぐに出てよ。忙しいんだから』
湊  『えっと・・・?』
莉音 『莉音です。梨里香ちゃんに番号教えてもらいました。』
湊  『あぁ、そうなんや。・・・って、それで紫苑くんはみつかったん?』
莉音 『お陰様で。今、光さんと紫苑がバイクでそっちに向かってるから。どうにか繋いで待ってて。』
湊  『バイク!?』
莉音 『こっち片付けたら私も向かうから、あとよろしくね。』

ブツンっと一方的に電話は切れた。

晴樹 「バイクってなんや?」
湊  「いや、莉音ちゃんからでな、ももと紫苑くんがバイクでこっちに向かってるから、とりあえず繋いどけ言われた。」
晴樹 「はぁ!?・・・ま、まぁこっち向かってるんやったらよかったけどやな、なんでバイクやねん。」
章仁 「街中走るのはバイクが速いからじゃないの?」
晴樹 「あほっ!そんなんわかっとるわ。」
湊  「ハル、アキにあたるな。それよりどうにかせな、もうそろそろ時間やで。」


ふたりが乗ったバイクは、車の合間を縫うように走っていた。
光がバイクを運転するのは2年ぶりだ。亮太がバイク事故で亡くなってから一度も乗っていない。もともと小柄な光が大型バイクに乗るには、それなりにテクニックが必要だったが、それでも走り出してみれば身体が覚えていて自然に体重移動も出来ている。
紫苑はその細い腰に腕を回し、まだ光と出会って間もない頃の、あの雷雨の日のことを思い出していた。雷に怯え木の下で小さく蹲っていた光。過呼吸になり意識も朦朧としているなかでも、家を飛び出してしまった柚子を心配していた。

まったくこの人は、大切なもののためには自分のことを後回しにしてしまう。今だってきっと恐怖心を押さえ込んでハンドルを握っているに違いない。俺の為に、Lumie`re (リュミエール)の為に、俺たちを待っている仲間たちのために・・・。ただあの場所を目指すことだけを考えて。だからこそ、放っておけないんだけどな。

ライブ会場までの距離もあと三分の一というところで、とうとう雨が降り出した。ポツポツとヘルメットに雫が当たったかと思ったら、あっという間に雨脚は激しくなる。いわゆるゲリラ豪雨というやつだ。雨が降り出したというよりは、激しく降っている場所に突っ込んでしまったという感じである。既にかなりの雨量だったことがうかがえるほど路面は濡れていた。所々水たまりも出来ていて、点灯し始めた車のヘットライトや街の明かりが反射して更に視界が悪い。

くそっ、あと少しなのに。光さんの身体が冷え切るまえに到着したい。

紫苑がそんな事を思った時だった。光の身体がビクリっと跳ねてブレーキがかかった。次の瞬間、キュキュキュキュというタイヤの音とともバイクが横滑りしていく。そして、まるでスローモーションのように景色が流れていった。




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オレンジ色のスポットライトに照らされた銀髪の男は無表情に言う。

・・・「僕はただ、自由になりたいの。」

その横顔は、まるで光と出会った頃の紫苑の表情そのものだった。

光  「・・・紫苑、どないしたん?何があったんや?」

光は、窓の外を眺めながら、冷たい言葉を吐く銀髪の男に声をかける。

・・・「忙しいんだ、邪魔しないでくれ。あんたはライブでもどこにでも行ってっ・・・」
光  「あほかっ!今更何言ってんねん!この日の為に、俺らの為に・・・どんだけの人達が動いてくれてるんかわかってるやろ!俺らかてこの日の為に一生懸命練習してきたんやんかっ!」
・・・「・・・面倒臭いなぁ。僕には関係ない。」

次の瞬間光は走り出し、その男の胸ぐらをつかんでいた。乱暴に顔を引き寄せ、紫色の瞳をまっすぐに見つめる。

光  「紫苑!ちゃんと俺の目見て言いや!ほんまに、ライブやめたいんやったら、ちゃんと俺の目見て・・・!?」

光は、はっとして身体を離した。

光  「・・・お前、誰やっ!」

後ずさりする光を今度はその男がつかんで引き寄せた。光の細い肩を後ろから抱きしめて耳元で囁く。

・・・「大事なライブがあるんでしょう?早く行きなよ。紫苑がいなくてもデビューできるさ。金の為なら莉音が動くでしょ。」
光  「お前・・・零王・・か?」
・・・「だから、紫苑だよ。零王の人生は今日ですべてリセットされるんだ。」

光は男の腕を振りほどき正面に立った。大きく深呼吸をして零王をまっすぐに見つめる。

光  「顔は似てるかもしらんけど、全然ちゃうな。お前は紫苑になんかなれへん。
自分だけ辛い思うなや。紫苑は、悩んで苦しんでそれでも自分と向き合って一生懸命生きてきた。・・・自由になりたいんやったら、なればええ。紫苑になるんやなくて、零王でや。零王で自由にならな意味ないやろ。」
零王 「何も知らないくせに、勝手なことを言うな。」
光  「知らんわ。悩みなんて人それぞれちゃうねん。その重みも人それぞれちゃう。比べることなんてできんのや。同じ人間はおらんのやから。そやから、お前と紫苑が入れ替わるちゅうことも意味ない言うてんねん。」
零王 「もう、僕は僕でいることに耐えられない。もう、やめたいんだよ。」
光  「自分をやめたりなんかできん!自分は自分や。どんなに紫苑の真似してもお前は零王や。」
零王 「うるさい!黙れ!」

零王は光の胸ぐらをつかんだ。それでも光はまっすぐに零王の瞳を見つめる。

光  「思ってること、親父さんに言ってみればええやんか。」
零王 「あいつが僕の言うことなんか聞くわけないだろ。あいつにとって僕はただの人形なんだから。」

紫苑 「零王!・・・光さんから離れろ。」

息を切らした紫苑が入り口の扉に立って零王を睨みつけている。
零王は、ちらりと紫苑に目線を向けるとニヤリと笑って、光の胸ぐらをつかんだ逆の手で後頭部をつかみ、そのまま口づけた。

紫苑は慌ててふたりに駆け寄り引き離すが、バランスを崩し、光を抱きしめたまま背中から倒れた。

零王 「よくあのカプセルから脱出できたな。・・・莉音か?」
紫苑 「・・・」
零王 「でも、もうすぐお前を迎えに研究所のやつらが来るから戻ってくれないかな?」

莉音 「お生憎様。そいつらは今、紫苑とふたりで片付けてきたわ。」

莉音がブーツの踵を鳴らして部屋に入ってきた。その後ろには足下がふらついている手塚も一緒だ。

零王 「うそだろ!?何なんだよお前ら!僕の計画を無茶苦茶にしやがって!」

虎之助「零王!いい加減にせんか。今頃反抗期なのはかまわんが、やることが大きすぎる。そんなところばかり父親に似おって、まったく」

今度は、莉音が入ってきた扉とは反対側の扉が開き、虎之助が柚子を抱いて入ってきた。

莉音 「おじいちゃん!遅いよ。」
虎之助「あぁ、すまんすまん。孫たちの兄弟喧嘩に爺がでるのもどうかと思ってな。」
紫苑 「俺は冷凍されるところだったみたいだけど?」
虎之助「スイッチ入れる前には登場する予定だったぞ。うははははっ。」

放心状態の零王のところへ手塚がふらふらと歩み寄り、震える肩を抱きしめた。

莉音 「紫苑、光さん。急いで!もうライブ始まる時間よ。」
紫苑・光「!!」

紫苑と光は顔を見合わせて立ち上がった。莉音は光に向かってバイクのキーを投げる。

莉音 「紫苑はさっき足を痛めてる。光さん。免許は持ってるでしょ?急いで!」
虎之助「後のことは、任せておけ。」

光はうなずきキーを握りしめると、紫苑に肩を貸して部屋を出た。




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紫苑 「・・・っ?!光さん?!」

紫苑は光の声を聞いたような気がして、目が覚めた。
その瞬間、激しい頭痛に見舞われ、自分が今置かれている状況が把握できない。

何が起きてる?

頭を振りながら起き上がろうとするが、何かに思い切り頭をぶつけてしまった。
紫苑はカプセルのようなものの中に寝かされていた。真っ暗ななか、あちこち叩いてみるがびくりともしない。

紫苑 「くそっ」

ひとしきり暴れると、すこし落ち着いて目が覚める前の記憶をたどってみる。

ああ、リハーサルが終わって楽屋に向かう途中で手塚から電話があったんだ。親父がどうしてもライブ本番前に渡したいものがあるとか・・・。楽園に取りに来いって・・・。
またいつものことかと無視しようと思ったけど、親父はいつも自分でメールしてくるのに手塚を使って連絡してくるのは変だと思ったんだ。手塚の様子もおかしかったから・・・。

そうだ。部屋に入るとそこに零王がいた。しかもシルバーの髪に紫色の瞳をして。
今まで俺が零王になりすます必要があっても、零王が俺になる必要はなかったはずだ。

紫苑 「何してる?」
零王 「ん?」
紫苑 「何をしていると聞いている。」
零王 「今日からここは、僕の部屋だよ。」

零王のヤツ、俺と入れ替わると言ったんだ。俺と入れ替わって自由になるって。

零王 「だから、僕がその心臓もらうね。」
紫苑 「はっ!?何言ってるんだお前?」
零王 「心配しないで。苦しまないようにしてあげるから。」
紫苑 「・・・何を企んでる?」
零王 「僕はもう、神宮司零王でいることをやめるんだ。このまま壊れた心臓抱えて神宮司の言いなりに生きていて、何の意味がある?そんなのただの人形だろ?だから紫苑の心臓をもらって紫苑として自由に生きることにした。」
紫苑 「ふざけるな!」
零王 「どうせ紫苑は失敗作なんだ。心臓以外の体は研究材料になってあげてよ。・・・彼らの」

そのとき後ろから押さえ込まれて・・・何かを嗅がされた。そうだ、それで気を失って・・・。

薄れる意識のなか、紫苑の耳には零王の不気味な笑い声だけが届いていた。

紫苑 「くそっ。今何時だ?俺はどれくらい意識を失ってた?ライブは・・・」

紫苑は再び狭く真っ暗な中、手探りで出口を探す。
しばらくすると話し声が近づいてきたが、カプセルのせいか話の内容までは聞こえない。声はすぐに争っているかのようになり、ガタガタと激しい物音がしてカプセルがぐらりと揺れた。

紫苑 「誰かいるのか?!」

紫苑は叫び、目の前のガラス素材を思い切り叩いた。すると急に明るくなってガラス越しにのぞき込む莉音と目が合った。莉音はめずらしくやわらかい表情をすると、カプセルのふたが静かに開いた。

莉音 「よかった。間に合って・・・。」

紫苑が軽いめまいに襲われながらゆっくりと起き上がると、莉音の足元には男が2人転がっていた。

紫苑 「何これ?」
莉音 「説明は後で。光さんがっ」
紫苑 「!?光さんも来てるのか?」
莉音 「ごめん。・・・場所はわかってる。まずはあんたが冷凍される前に助けないとと思って」
紫苑 「冷凍!?」
莉音 「だから説明は後で!」

二人はその部屋を出ると、奥に向かって走り出した。




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莉薗は、光達がいつも最上階の部屋に行くときに使用しているエレベーターに乗り込むと、先ほどの鍵を階床ボタンの下にある鍵穴に差し込んだ。続いて手早く暗証番号を入力すると静脈認証板に手をかざす。エレベーターは静かに上昇して止まり、扉が開くと、そこには真っ白で無機質な空間が広がってい。

なんやこれ?・・・病院?

真っ白な壁に真っ白なカーテン、真っ白なソファー・・・まるで病院の待合室のようだ。更に左右に伸びた廊下の先には病室のような真っ白なドアがある。

莉薗 「紫苑!」

その待合室の真中まで進むと、莉薗がいつもより少し低く響く声でその名を呼んだ。
耳を澄ますと、左手の廊下の先からほんの微かに、くぐもったうめき声が聞こえる。
ふたりは同時に走り出し、ひとつの扉の前で立ち止まった。確かに声が聞こえる。莉薗は躊躇することなく扉を開き、部屋に飛び込んだ。

光る 「っ!!」

紫苑・・・!?

その部屋は広く、病院の特別室のようなつくりだが、異様に白い壁に囲まれ窓がない。
大きなベッドには、細身だが質の良い筋肉が程良くついた男の裸体が、朱色の紐で模様を描くように幾重にも括られている。真っ白なシーツに横たわる男の肌はどこまでも白く、髪までもが銀色で、紐の朱が映えて美しいとさえ思えた。紐と同じ色の布で猿轡と目隠しをされたその男は、突然の人の気配に身を硬くする。
そして、「近づくな」とでも訴えるかのように、その銀色の髪を揺らして顔を何度も左右に振るが、その度に彼の身体に括られた朱の紐が身体いくいこんでいく。

部屋に飛びこむなりベッドに駆け寄ろうとした光の口を塞ぎ背中から抱きとめていた莉薗は、ベッドの男の様子を見ると、腕のなかにいる光の瞳を覗き込み、ゆっくりと頷いた。口を塞いでいた手を離し、自分の唇に人差し指を立てると、もう一度頷いて今度はドアに視線を向けた。
光は頷いて、そのドアから静かに部屋を出た。

部屋を出ると光は先ほどの待合室までもどり、ソファに腰をおろして大きく息を吐き出した。

紫苑や・・・なかった・・・。
誰やあれ?・・・なんでこんな・・・。
!?・・・紫苑は、どこにおるんや?そうや!探さなっ!

光が立ちあがって周りを見渡すと、先ほどとは逆の通路からシルバーで毛並みの良い猫が走り寄ってきた。

光  「柚子!」

光はしゃがみ込み柚子を抱きあげ、その紫色の瞳を覗き込んだ。

光  「柚子。どないしたん?どこから入ってきたん?」
柚子 「にゃぁ~」
光  「柚子。紫苑知らんか?」

光の問いかけに、その頬に顔をすりよせていた柚子は、急に暴れて光の腕から飛び降りた。道案内をするとでも言いたげに、「にゃー」と一声鳴くと、今来た通路に向かって歩き出す。

光  「・・・?そっちに、紫苑がおるんか?・・・おるんやな?」

光は柚子の後を追って歩き出した。



莉薗は光を部屋から出すと、ベッドに近づいて声をかけた。

莉薗  「莉薗よ。大丈夫だから、もう動かないで。」
・・・ 「ん・・・んんっ・・・」

莉薗はまず、その男がつけていた銀髪のヅラをとって目隠しを外し、つぎに猿轡を外した。

・・・ 「りお・ん・・・さま・・・んんっ・・・」
莉薗  「ふふっ。そそるわね、手塚。」

莉薗は潤んだその瞳を覗き込み口角を少し上げると、白い肌の中央でヒクヒクと震えている、細い朱の紐で念入りに括られたそこを指で弾いた。

手塚 「あっ・・・んんっ・・・やめっ・・・・」
莉薗 「あいつ、なかなかの縛師ね。」
手塚 「紫苑さま・・がっ・・・んっ・れ・・おん、さまを・・たすけっ・・て」
莉薗 「わかってる。」

莉薗はそう言うと、持っていたナイフでベッドに括られていた朱の紐を切った。
首と腕に巻かれた朱を切ると、そのナイフを手塚に握らせる。

莉薗 「後は自分で出来るわね?それは、私にはどうにもしてあられないでしょ?」

こんな状況にも関わらず、手塚の男根は巻かれた朱の紐を緩める事もなくそそり勃っていた。後孔に入れられたもののせいなのか、何か薬でも飲まされたのか。どちらにしても平常時の手塚からは想像もできない姿である。
莉薗は上着を脱いで手塚の腰に掛けると、にっこりと微笑んで部屋を出た。



光は、柚子の後をついて通路の奥までいくと、突き当たりの部屋の前で立ち止まった。扉は開いている。ゆっくりと近づき中を覗き込むとその部屋はひと際広く、奥の大きな窓からは西日が射しこんでオレンジ色に輝いていた。その窓の前に銀髪の男が立っている。

・・・「光・・・さん?」
光  「紫苑!?」
・・・「どうして・・・来ちゃったの?」
光  「えっ?・・・紫苑が心配やったから・・・し、紫苑こそ、何しとんねん!?ライブ、もすぐ本番やで!?」
・・・「うん。ライブなんて出ないよ。沢山の人前に出て、有名人にでもなっちゃってからだと困るから。今日にしたんだ。間に合ってよかった。」
光  「な、何言って・・・!?」




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浅いすり鉢状になっているライブ会場の客席は、既に沢山の人で埋め尽くされていた。
スピーカーからはLumie`re (リュミエール)の曲が流れている。
ほんの少し前まで広がっていた青空は薄紫色になっていた。そして、ステージの向こう側に見える空は真っ黒だ。時折、遠くから雷鳴が聞こえてくる。

晴樹は密閉された喫煙所の柱に寄りかかり、タバコをくわえながら白く煙る天井を仰ぎ見た。

晴樹 「やっぱり、行かせたんは間違いやったやろか・・・。」

ふと気配がして視線を戻すと、いつの間にか正面のガラス窓を挟んで、湊が目の前に立っていた。目が合うと、涼しげに微笑み喫煙所に入ってきた。

湊  「大丈夫や。きっとふたりそろって戻って来る。」

湊は、晴樹の呟きが聞こえたかのように声をかけると、長い黒髪をかきあげ、人差し指を立てた。
めったにタバコを吸わない男が、1本というのだから、やはり不安があるのは明白である。
晴樹が胸ポケットから煙草をとりだすと同時に、ほんの少し前、湊が立っていたあたりが一瞬で真っ白になった。少しの間をおいて薄い壁がビリビリと振動するほどの雷鳴が響いた。
ふたりは一瞬目を合わせると、部屋を飛び出しステージ袖まで一気に駆け上がる。
客席の真上にある空は、まだ紫色をしていた。それを確認すると楽屋口へ向かい外に飛び出した。しかしそこから見える遠くの空は真っ黒だった。

湊  「あの雲・・・こっちに来るんやろか?」
晴樹 「どうやろ・・・。」
湊  「もも・・・大丈夫やろか。」

流石のふたりも不安にならずにはいられなかった。
あの日と似ている。
2年前、Lumie`re (リュミエール)のメンバーだった栗山亮太は、ライブの本番直前に柿崎卓哉をバイクで迎えに行き戻る途中、雷雨に襲われ事故で命を落とした。

真っ直ぐ前に広がる黒い雲を睨むように見つめながら、言葉を失っていたふたりの頬をぬるい風がかすめた時、背後から慌ただしい足音が聞こえてきた。振り返ると、湊のスマフォを握りしめた彰仁が駆け寄ってきた。

彰仁 「はぁはぁ・・・祥くんこんな所にいたの?・・・さっきから電話が鳴ってて・・・」

湊が、息を切らす彰仁の手からスマフォを受け取り画面を見ると、見知らぬ番号の着信履歴があった。

湊  「・・・誰・・やろ。」
彰仁 「何度もかかってきてたよ。祥くん探してる間もずっと。急ぎ何じゃない?」
湊  「・・・」

湊は一瞬、見知らぬ番号にかけ直すことを躊躇った。
あの日も、亮太と卓哉の到着を、いまかいまかと待ちながら、降りしきる雨空を見上げていた時に、見知らぬ番号から携帯に着信があった。それは、亮太と卓哉がライブ会場に来ることはないと、二度とこのメンバーでライブは出来ないと言う事実を突き付ける知らせだったのだ。

彰仁 「・・・どうしたの?」

当時の事を知らない彰仁は、訝しげに湊の顔を覗き込む。
すると今度は太い稲光がビルの谷間に突き刺さり、間もなくして空気を震わせるような雷鳴が聞こえてきた。
湊は目を閉じて深呼吸をすると、着信のあった見知らぬ番号にリダイヤルした。



太陽が真横から照らす都心の道路を、車の合間を縫うように莉薗はバイクを走らせた。
光はふり落されないようにその細い腰にしがみつく。
莉薗がバイクを止めたのは、その最上階に光と紫苑が住んでいるビルの前だった。

光  「・・・楽園?」

ヘルメットを脱ぎ、長い巻き毛を手ぐしで整えながら無言で歩きだす莉薗に置いて行かれないように、光は小走りについていく。
莉薗は2階にある事務所に、ノックもせずに入ると、そこにいた数人が一気に注目した。

莉薗 「マリンさん!あの部屋の鍵出して!」
マリン「あら、ビックリ!莉薗ちゃんじゃない。珍しいわね~。」

マリンと呼ばれた、どうみてもオネエ系の派手な彼?彼女は大げさに驚いて莉薗を見つめた。

莉薗 「遊んでる暇はないの!あの部屋の鍵!急いで!」
マリン「あの部屋って・・・」

急かす莉薗の意図を図るように。その緑色の瞳を覗き込んだマリンの表情は笑顔だが、目が笑っていない。

マリン「あの部屋は使ってないわ。」
莉薗 「ええ。使わないはずの部屋が使われてるの。だから鍵!」
マリン「でもね~勝手に使うと社長が・・・。」
莉薗 「私に鍵を渡さないと、その社長が激怒することになるわよ。この会社も潰すかも。マリンさんの処分も・・・」
マリン「はーい!降参でぇーす!」

マリンは両手を上げて、奥に鍵を取りに向かい、すぐに戻ってきた。

マリン「ホント、莉薗ちゃんは社長にそっくりね。」

軽くため息をつくと、カードキーを莉薗に渡した。

莉薗 「緊急事態なの。ありがとう。」

莉薗は、その様子をあっけにとられて見ていた光の肩を軽く叩くと、部屋を飛び出した。




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