光はここに到着したときに莉音が置いたハルのバイクにまたがってエンジンをかけた。紫苑はヘルメットを着けながら心配そうに光の顔をのぞき込む。
紫苑 「光さん。大丈夫?俺の足これくらい平気だから運転出来るよ。」
光 「大丈夫や。怪我しとったら、いざって時に踏ん張れんやろ。それにさっきまで気失ってた言うし。」
紫苑 「・・・だけど、・・・雷も・・・」
光 「わかっとる。」
雨は降り出していなかったが、大きな雷鳴が近くで何度も繰り返し響いている。時折真っ黒な雲の合間から稲光が地上を貫く。光はまぶたを閉じ、拳をぎゅっと握って深呼吸をした。
2年前のあの日、亮太と卓哉はどんなに待ってもライブ会場に現れることはなかった。だけど俺は、紫苑と一緒にあの場所に行く。みんなが待っているあの場所に必ず。
光 「紫苑、行くで。」
二人を乗せたバイクは一気に加速して街の喧噪に溶け込んでいった。あの約束の場所を目指して。
ライブ会場では、湊と晴樹、そして章仁が、そんな光と紫苑を信じて待っていた。
目の間には真っ黒な雲が広がり、雷鳴が聞こえている。
湊は胸の動機を覚えつつ、自分のスマフォに何度も不在着信していた見知らぬ番号にリダイヤルをした。
短い呼び出し音で出た相手は、拍子抜けするほど明るい声だった。
・・・『おっそーい!すぐに出てよ。忙しいんだから』
湊 『えっと・・・?』
莉音 『莉音です。梨里香ちゃんに番号教えてもらいました。』
湊 『あぁ、そうなんや。・・・って、それで紫苑くんはみつかったん?』
莉音 『お陰様で。今、光さんと紫苑がバイクでそっちに向かってるから。どうにか繋いで待ってて。』
湊 『バイク!?』
莉音 『こっち片付けたら私も向かうから、あとよろしくね。』
ブツンっと一方的に電話は切れた。
晴樹 「バイクってなんや?」
湊 「いや、莉音ちゃんからでな、ももと紫苑くんがバイクでこっちに向かってるから、とりあえず繋いどけ言われた。」
晴樹 「はぁ!?・・・ま、まぁこっち向かってるんやったらよかったけどやな、なんでバイクやねん。」
章仁 「街中走るのはバイクが速いからじゃないの?」
晴樹 「あほっ!そんなんわかっとるわ。」
湊 「ハル、アキにあたるな。それよりどうにかせな、もうそろそろ時間やで。」
ふたりが乗ったバイクは、車の合間を縫うように走っていた。
光がバイクを運転するのは2年ぶりだ。亮太がバイク事故で亡くなってから一度も乗っていない。もともと小柄な光が大型バイクに乗るには、それなりにテクニックが必要だったが、それでも走り出してみれば身体が覚えていて自然に体重移動も出来ている。
紫苑はその細い腰に腕を回し、まだ光と出会って間もない頃の、あの雷雨の日のことを思い出していた。雷に怯え木の下で小さく蹲っていた光。過呼吸になり意識も朦朧としているなかでも、家を飛び出してしまった柚子を心配していた。
まったくこの人は、大切なもののためには自分のことを後回しにしてしまう。今だってきっと恐怖心を押さえ込んでハンドルを握っているに違いない。俺の為に、Lumie`re (リュミエール)の為に、俺たちを待っている仲間たちのために・・・。ただあの場所を目指すことだけを考えて。だからこそ、放っておけないんだけどな。
ライブ会場までの距離もあと三分の一というところで、とうとう雨が降り出した。ポツポツとヘルメットに雫が当たったかと思ったら、あっという間に雨脚は激しくなる。いわゆるゲリラ豪雨というやつだ。雨が降り出したというよりは、激しく降っている場所に突っ込んでしまったという感じである。既にかなりの雨量だったことがうかがえるほど路面は濡れていた。所々水たまりも出来ていて、点灯し始めた車のヘットライトや街の明かりが反射して更に視界が悪い。
くそっ、あと少しなのに。光さんの身体が冷え切るまえに到着したい。
紫苑がそんな事を思った時だった。光の身体がビクリっと跳ねてブレーキがかかった。次の瞬間、キュキュキュキュというタイヤの音とともバイクが横滑りしていく。そして、まるでスローモーションのように景色が流れていった。
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