湊 「遅いなぁ。」
晴樹 「そうやな。雅樹たちも30分が限度やで。」
舞台裏のバタバタに気づいた雅樹と達也が楽屋に飛んできて、オープニングアクターとして歌うことで時間稼ぎを買って出てくれたのが20分前の事だ。既にライブ開演時間を過ぎている。魅力的な歌声と演奏に加え、路上ライブで鍛えた話術で観客たちを魅了しているふたりだが、そもそもLumie`re (リュミエール)のデビューライブなのだ。あまり長くは待たせられない。観客がというよりも詰めかけていたマスコミが、予定外の進行に騒ぎ始めていた。
湊 「莉音ちゃんの話やと、もう着いててもええ頃なんやけどな。」
湊と晴樹と章仁は、楽屋出入り口から、ただ遠くの空をみつめて待つしかなかった。
雷鳴はだいぶ遠のいていた。幸い会場の空を雨雲が覆うことはなく、3人の視線の先には夕焼けのオレンジ色と闇の紫色が美しいグラデーションを作っていた。
遠くで雨が降ったせいでだいぶ涼しくなってきた。まさに野外ライブ日和だ。
しかし3人は無言のまま、なすすべもなくただ時間だけが過ぎていく。
そこに、後ろからバタバタと足音が聞こえてきた。
スタッフ「すみません!もう限界です。」
振り向く3人に向かって、走り込んできたスタッフが勢いよく頭を下げた。
湊 「こちらこそ、すみません。わかりました。」
晴樹 「ここは正直に、ごめんなさいするしかないやろ。」
章仁 「うん。」
晴樹 「とにかく遅くても、ふたりが無事ならそれでええ。俺らが頭下げる。」
湊 「そうやな。行こか。」
3人は今一度、街へ続く道を振り返ると、顔を見合わせそれぞれの思いを確認した。
湊は深呼吸をすると、大きな拍手と歓声に送られ舞台下手に降りてきた雅樹と達也と、無言で目を合わせ、そのままステージへ歩み出た。晴樹と章仁もそこに続く。
晴樹がギターを肩にかけ、軽くチューニングをする。章仁が椅子の位置を調節してバスドラを鳴らす。湊がいくつかのつまみを操作してシンセサイザーの音を作る。
キュイーン
晴樹のギターが高音からソロパフォーマンスを始めると、合わせて章仁がリズムを刻みだし、湊がメロディーを重ねる。
セッションが始まった。
オーディエンスの表情は明るい。手拍子を打つもの。リズムに合わせて身体を揺らすもの。歓声を上げるもの。徐々に会場内がひとつになっていく。
暫くすると、やや足を引きずりながらもう一人ステージに上がってきた。
肩にベースをかけると章仁のリズムに合わせて、ベース音のリズムを加えてきたかと思うと、早弾きのパフォーマンスで観客の注目を一気に集める。
紫苑だ。
サラサラの銀髪を揺らしながら、紫色の瞳は遠く一点を見つめていた。
その視線の先には、虹が見えている。
それぞれの音が重なり合い、激しくも心地よい曲が奏でられ、会場内のボルテージは徐々に上がっていく。四人はそれぞれ目を合わせその曲を最高に盛り上げてエンディングに導く。連打したシンバルを章仁が手で止めて曲が終わると会場からは大きな拍手が送られた。
拍手が鳴り止むと一瞬の静寂の間があり、ひとつの影が静かにステージセンターに歩み出た。
微かなブレス音。そして・・・
高音で少し鼻にかかる癖のある、光の歌声。
♪信じて歩きだそう
まだ見ぬ景色を 君とみるために~♪
いよいよLumie`re (リュミエール)のデビューライブが幕を開けた。
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