10月吉日。
空は青く果てしなく高い。
早朝から機材が運び込まれ、沢山の、そして一流のスタッフが汗を流しながら忙しなく動き回り、サウンドチェックをし、Lumie`re (リュミエール)のメンバーはリハーサルを終えた。
あとは、オーディエンスを迎えての本番を待つのみだ。
湊 「もも、それはないわ。」
光 「なんでやねん?ええやん、それでぐっすり眠れたんやから。」
湊 「僕やったら絶対弾かんで?」
光 「なんでぇ?」
湊 「ほんなら夜中にな、しかも大きなライブの前日やで?ももは、本気で歌ってぇ言われて歌うか?」
光 「それは無理やな。眠れんくなる。」
湊 「そうやろ?ピアノ弾くんかて同じやで?」
光 「そうなん?紫苑はめっちゃ普通に弾いてたで?」
湊 「普通って・・・。月光やろ?ベートーヴェンの?」
光 「そう言うとった。」
湊 「しかもフルやろ?ないわー。どんだけ神経使うて弾く思っとんねん。」
光 「そ、そうなん?」
光は急に不安になった。夕べ自分が紫苑にリクエストしたことは、紫苑にとって辛いことだったのかもしれない。
紫苑はあの後眠れんくなってしもたんやろか・・・?
晴樹 「もも、大丈夫やって、湊は面白がって言うてるだけや。」
光 「ん?・・・そう・・か?」
晴樹 「紫苑くんかて、嫌やったら嫌言うやろ。ももん為に弾いてくれたんは、自分も弾きたかったからや。」
光 「・・・そうやろか?」
晴樹 「そうや。なぁ、湊?湊かて、アキに弾いてぇ言われたら弾いとるやろ?」
湊 「くくっ・・・そうやなぁ・・・。」
晴樹 「ほらな。そういうことやねん。」
光は夕べのことを思い出していた。
グランドピアノのある部屋に行くと、紫苑はソファーに光を座らせ、ゆっくりとピアノの前に座り、軽く指慣らしの為の曲を弾いた。
紫苑 「練習していないので上手く弾けるかわかりませんけど、光さんの為だけに弾きますね?眠くなったらそのまま眠ってしまってもいいですよ?」
光がソファーの背にもたれ目を閉じると、紫苑は、深く息を吸いこみ、静かに鍵盤を弾きはじめた。
ベートーヴェンが30歳の時、14歳の年齢差と身分違いの恋人ジュリエッタへ捧げる為に作曲された曲。
紫苑はあの日、光への禁断の恋心に気づかされ、その想いを奏でたのだった。
莉薗 「みなさーん、お疲れ様でぇーす。サンドウィッチ作ってきましたー。アキくん大丈夫?」
彰仁 「大丈夫!俺、結構力持ちだよ?」
大きなバスケットを両手に持った彰仁を従え、赤毛のロングヘアーをくるくる巻髪にしてハイヒールの音を響かせながら、莉薗が楽屋への階段を下りてきた。
湊が素早く彰仁からバスケットを受け取るとテーブルに並べ始める。
莉薗 「もう、この人数分作るの大変だったのよ~。」
光 「ふふっ。おばあちゃんがでしょ?」
莉薗 「ん!?」
光 「紫苑が言うてたで?莉薗ちゃん料理全然できひんって。」
莉薗 「ちょっと、紫苑!!」
莉薗は紫苑の姿を探して周りをくるりと見渡した。
莉薗 「あら、紫苑は?」
光 「なんや、お父さんに呼び出された言って出かけたで?」
莉薗 「パパに?・・・どこへ?」
光 「すぐ戻るって言うてたけど・・・聞いてへん。」
莉薗はすぐにスマホを取り出して紫苑に電話をかけるが繋がらない。
湊がすぐに、莉薗の表情の変化に気づいた。
湊 「莉薗ちゃん、どないした?」
莉薗 「・・・パパが紫苑を呼び出すはずがないの。それに・・・。」
光 「な、なんや。紫苑がどうした言うねん。」
莉薗 「大丈夫。後は私がなんとかする。あなた達はこの後のライブの事だけ考えて。時間までには紫苑を連れて来るから。」
莉薗がドアに向かうと、握りしめたスマホが震えた。届いたメールに素早く目を通すと全てを理解した表情になった。
光 「俺も行く!」
莉薗 「ダメ!!これは神宮寺の問題なの。それに、あなたを連れて行ったら私、紫苑に殺されるわ。光さんは歌うことだけ考えて。」
莉薗は光をみて微笑むと、晴樹に目を向ける。
莉薗 「キー貸して。」
晴樹 「ん?」
莉薗 「バイクのキー貸して。」
光 「バイクって?ハルバイク乗ってるんか?」
晴樹 「まぁ、都心は車より早いしな。」
莉薗 「そう。車より早いから、早く!!」
晴樹は腰につけていたキーを外すと莉薗に投げた。
莉薗はバイクのキーを受け取ると、ハイヒールの音を高く響かせ、階段を駆け上がった。
莉薗 「まずは着替えなきゃ。それから・・・」
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