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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
<妄想>です。
実在する地名・人名・団体名が登場しても、それは偶然ですので、まったく関係ありません。
また、ここに記されている内容はオリジナルですので
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湊  「ハル?・・・ももは?」

莉薗が楽屋を出て行くと、すれ違いに舞台監督が湊を呼びに来た。
光のことを晴樹にまかせ、スタッフと最終打ち合わせをしてきた湊が楽屋に戻ると、そこに光の姿はかった。

晴樹 「ん?客入れする前に客席見てくる言うてたで?」
湊  「は?あんな暴れてたのにか?」
晴樹 「それが、湊が出て行ってすぐ落ち着いてな、顔洗って客席見て声出しする言うて。」
彰仁 「俺も一緒に行くって言ったんだけど、ひとりになりたいって言うから・・・。」
湊  「ないわ・・・。」

湊は弾かれたように楽屋を飛び出した。晴樹と彰仁も後を追う。
3人が地下の駐車場に到着すると、丁度バイクが出て行くところだった。

彰仁 「ふたり乗り?」
晴樹 「うしろは、ももやな。・・・すまん、湊。」
湊  「・・・ええよ。ハル、わかってて行かせたんやろ?」
晴樹 「ふっ。バレとんかい。」
湊  「どんだけの付き合いやと思っとんねん。それに・・・僕かて行かせたかもしらん。」

あの日。亮太と卓哉がバイク事故で亡くなった日。
ライブ開始時間が刻一刻と迫る中、卓哉を迎えに行った亮太がいつまでたっても戻らず、連絡もとれない状況の中、光がどれほど心を乱していたのか。
そして、とうとう戻ることのなかった亮太を、行かせてしまったことの後悔に押しつぶされた光を、ずっと見てきたふたりは、光に同じ想いをさせたくはなかったのだ。

晴樹 「ももには、・・・何もせずに待ってるんはきついやろ。」
湊  「・・・そうやな。」
晴樹 「あの莉薗ちゃんの顔色が変わったくらいや。危険なのかも知らんけど。」
湊  「大丈夫や。・・・僕らには待つしか出来んけどな。」
晴樹 「待つんは、辛いんやけどな。」
湊  「・・・そうやな。」
晴樹 「辛いけど、信じられる気するねん。紫苑くんも莉薗ちゃんも・・・もももな。」
湊  「ん。・・・ももは、きっと紫苑くん連れて戻ってくる。」

ふたりのやり取りを、少し後ろで見ていた彰仁は、湊の手をそっと握った。
3人は、バイクが走り去った駐車場の出口を、無言のまましばらく見つめていたが、メールの着信音がその沈黙を破った。
湊がジーンズの後ポケットからスマフォを取り出す。

湊  「なんや、梨里香からや。」

梨里香『莉薗さんからの伝言です。光さんを連れて行きます。本番までには戻りますので、後の事はよろしくお願いします。やそうです。っていうか、まだメアド交換してへんの?私は伝書鳩ではありません。!今、新幹線で東京向かってます。ライブ楽しみにしとるね。』

晴樹 「ぷっ!伝書鳩って・・・。」

湊の手元にあるスマフォの画面を覗き込んでいた晴樹が噴出した。

湊  「ほんま、我が妹君は。くくくっ。」

湊もつられて笑い出す。

彰仁 「ちょっとぉ、こんな時によく笑えるね。」
晴樹 「あほ。こんな時やから笑うねん。笑っとったら福がきよるからな。」
湊  「くくくっ。そうやで。・・・僕らは、僕らの出来る事をするんや。さっ、楽屋戻るで。」
晴樹 「そやけど、莉薗ちゃんがよくももんこと連れていったな?」
湊  「ほんまや。もも、どんな手つこうたんやろか?くくくっ。」


莉薗が珍しく思考をまとめるのに時間を掛け、着替えをして地下の駐車場に到着すると、そこには光の姿があった。

光  「俺も行く。」
莉薗 「駄目よ。あなたはここで紫苑を待って。」
光  「嫌や。もう、何もせんで待つんは嫌やねん。俺が紫苑を迎えに行く。」
莉薗 「あなたが迎えに来ることを、紫苑は求めていないわ。」
光  「それでもええ。それでも、俺が迎えに行く。・・・行かなあかんねん。」
莉薗 「・・・」

光は、莉薗をまっすぐに見つめる。その瞳は動かぬ意志を映しているかのように頑なだった。

光  「莉薗ちゃん。俺を一緒に連れて行って下さい。」

光は深々と頭を下げた。

莉薗 「光さん・・・。」
光  「連れて行ってくれんのやったら、俺はもう歌わへん。」
莉薗 「・・・」
光  「ほんまに・・・いや、歌わへんちゃう。・・・歌えへん。」

莉薗は、光のまっすぐに自分を見るその瞳を見つめ、深呼吸をすると口角を上げた。その様は紫苑とどこか似ている。

莉薗 「わかったわ。乗って。」

莉薗は、いま連れていかなければきっと光は本当に、二度とマイクを握らないのだろうと思った。そんなことになれば、紫苑が苦しむ。
莉薗も腹を括って光にヘルメットを渡した。
光は莉薗からヘルメットを受け取ると、バイクの後ろに跨った。
光にとって、大切な幼馴染の・・・それ以上に大切だった亮太の命を奪ったバイクに乗ることは、人生を懸けるほどの覚悟が必要だった。

莉薗 「しっかり摑まっててね。行くわよ。」




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