光は紫苑に手を引かれ、狭くて急な階段を下りる。重い扉を開くと、そこにはLumie`re (リュミエール)のメンバーの笑顔があった。
晴樹 「やっと来たかぁ。」
彰仁 「遅いよ~」
紫苑 「お待たせして、すみません。」
光 「みんな?何しとんねん。」
湊 「何って、リハやろ。」
光 「リハ?」
湊 「あっ、紫苑くんのベース、そこに置いてあるで。」
紫苑 「ありがとうございます。」
紫苑は、ステージにあがりチューニングを始めた。光はポカンと口を開けてその様子を見ている。
晴樹 「もももはよ、準備せぇ。柔軟とか発声とかするんやろ?」
光 「・・・?」
湊 「だいたいの曲は選んどいたで?セトリ決めよ。」
光 「ライブ?」
湊 「そうや。今夜ここでライブするんや。」
光 「・・・なんで?」
彰仁 「オファーがあったんだって!」
光 「オファー?」
晴樹 「なんやアキ、自分のお手柄みたいな言い方やな?」
彰仁 「ええーそんなことないよぉ。」
彰仁が頬を膨らませた。そんな彰仁の頭をぽんぽんとたたいて湊が光に歩み寄ってくる。
湊 「伊豆でCD買うてくれた人がな、大阪でライブしてほしい言うて、小屋代もチケットも全部さばいてくれてん。」
晴樹 「もっと大きいライブハウス言うてくれてんけど、今の俺らが大阪で最初にやるんやったら、ここしかないやろ?」
湊 「紫苑くんも、ここがええ言うてくれたしな。」
光はそっと紫苑をみつめると、ゆっくり笑顔になって頷いた。
光 「そうか。OK! ライブしよ。ライブ楽しもうや。」
晴樹 「なんや、急に元気になったな。」
光 「久しぶりに、ライブ出来るんや思ったら嬉しくなった。」
湊 「そうやろ?伊豆ん時は、オリジナルは少しだけやったしな。」
光 「そうやな。はよセトリ決めてリハせな。」
光はスイッチが入ったかの様に、いつものテンションになった。
伊豆から実家に戻り、祖父母との穏やかで静かな暮らしをしながら、自分の進む道を模索していた光だが、答えは何も見つからず自分の心さえわからなくなっていた。
紫苑とのことも、Lumie`re (リュミエール)の未来のことも、何も見えなくなっていた。。
色々な事件に巻き込まれることで、ずっと鍵をかけていた心の扉が開き、深い傷がいつの間にか剥き出しになっていたのだ。
光は、いつもでもどんな人ともすぐに仲良くなれた。八重歯を見せて笑顔になると、相手も笑顔になってくれる。真正面から向き合えば、相手も受け入れてくれる。でもそれは、幼いころから自然に身につけた自分を守る為の術だったのだ。
だから、傷ついて笑顔になれない時にどうすれば良いのかわからなくなった。
自分の中にある欲望が溢れそうになって、それを大切な人に向けたら嫌われてしまうのではないか。失望されてしまうのではないか。そしていつか、その人を失ってしまうのではないか・・・。
あほやな、俺。
どんな俺かて、受け入れてくれる仲間と、恋人がおるやんか。
光 「この曲は、外せへんで。」
湊 「ええやんか、これは。アルバムの1曲ってことで。」
光 「なんでやねん。ポップな曲やのに、切ない恋心を詩たった詞は絶対ライブでやったら受けるで。」
湊 「そやけど・・・。」
光 「自分で作った曲やんか。ふふっ。あのやさぐれとった日に作ったんやろ?」
湊 「うっ。・・・わかってるんやったら、今日は外せや。」
光 「嫌や。俺、この歌詞書いた時、天才やと思ったもん。」
湊 「・・・。」
晴樹 「なんや~?珍しく湊がももに押されてるなぁ?どないしたん?」
湊 「なんでもないわ。ももが急に元気になっただけや。」
光 「おおう。元気になった。今夜のライブ楽しみや~。はよリハしよ。」
紫苑は、いつもの笑顔を見せる光を見て、少しだけ口角を上げた。
夕方になると、Lumie`re (リュミエール)の凱旋ライブだと知った地元のファンたちが当日券を求めて長い行列を作った。
そしてその夜、彼らは、このライブハウスの最高動員数を更新することとなった。
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