光 「亮太、久しぶりやな。」
光は亮太の墓の前に立ち、声をかけた。ここに来る途中で花を買ってきたが、どこから水を持ってくれば良いのかわからず、そのまま墓石の横に置く。
光 「俺、墓参りの仕方もよう知らんのやな。・・・すまん、亮太。」
光は亮太の四十九日法要以来、栗林家に行っていない。息子を亡くしたご両親が、その息子といつも一緒にいた光を見る事がどんなに辛いだろうかと考えると、足を運ぶことが出来なかったのだ。
いや・・・それは建前で、本当はいつも亮太と一緒にいた場所に、ひとりで行く勇気がなかったのかもしれない。隣にいるはずの亮太がもういないという事実を、目の当たりにするのが怖かったのだ。
光 「なあ亮太。俺はいつも逃げてばっかりや。・・・亮太にもちゃんと返事せんままで、ほんまごめん。俺、自分の気持ちもようわからんかったし、何か言うて亮太失うんが怖かったんや。・・・俺、亮太んこと、大好きやったで。そやけどそれは家族としてな。ほんまの兄弟みたいに思っとった。だから、亮太が言ってくれた好きとはちょっと違うたんや。」
光は墓石に向かって真剣に話しかける。生前伝えられなかった気持ちを届けるかのように。
光 「亮太とキスしたりエッチしたりやなんて、想像もできんかった。男同士であかんやろ思っとった。・・・ごめん。」
緑に囲まれた静かな墓地には、最後の力を振り絞って鳴く蝉の声が響いている。
光 「・・・そやけど、紫苑とはキスしたりエッチしたりしたい思うねん。不思議やねんけど。俺、自分は結構淡泊な方やと思っとったのに、紫苑こと考えるとおかしくなりそうなんや。・・・どんどんエスカレートしていくし。もっと欲しい、もっともっとって・・・。狂いそうなくらい紫苑が欲しくて・・・。俺はあいつら、岸谷や竜二と同じなんやないかって・・・。」
光は大きく息を吐き、青空を仰ぎ見るとゆっくり視線を墓石にもどした。
光 「不安で・・・あいつらがしたこと思い出すと怖いし、吐きそうになる。今度もし紫苑とエッチして・・・そん時俺があいつらみたいに欲望に支配されてしもうたら・・・そう思うと怖いんや。・・・紫苑はやさしいけど・・・でもいつか紫苑を失ってしまうんやないかって不安に押しつぶされそうになってしまうねん・・・。」
???「それが、理由ですか?」
光 「えっ!?」
光はその声をよく知っている。背後から聞こえた声に身体をビクリとさせて振り返った。
丁度太陽の日差しを背中から浴びて、逆光になっているその人影はゆらりと揺れて近づいて来た。
光 「紫苑・・・?」
紫苑は光をまっすぐに見つめて、近づくとそのまま抱きしめた。光の心臓はトクトクという音のリズムを速めていく。
紫苑 「バカですね。」
光 「ばっバカって・・・」
紫苑 「そんなことで、俺と離れようなんて。」
光 「それは・・・自分の気持ちと向き合おう思って・・・。」
紫苑 「自分の気持ちと向き合う為に?・・・俺以外の男にそんな話するなんて。」
光 「・・・!?」
紫苑 「バカです。俺に、直接言えばいいでしょ?」
光 「紫苑に会うたら・・・こうやって甘えてしまうやんか・・・」
紫苑 「甘えたらいいじゃないですか。そんなことで俺があなたを嫌いになるとでも思っているんですか?」
光 「わからん・・・そんなんわからんやんか。みんなみんな、大事な人はみんな消えてしまうねん。おかんも亮太も・・・当たり前の毎日は、突然消えてなくなるんや。」
光は少し興奮して紫苑の腕の中で暴れた。紫苑は光を抱きしめる腕に力を入れる。
紫苑 「逃げないで、光さん。あなたはいつも真っ直ぐで、正面から人と向き合ってきたでしょ?短期間に色々なことがあって、混乱しているのはわかりますけど、嫌なことばかり思い出してしまったのかもしれませんけど・・・逃げないで。」
光 「・・・。」
紫苑 「俺は、あなたの前から消えたりはしない。」
光 「紫苑・・・。」
紫苑 「見縊らないでください。俺の光さんへの想いを。」
紫苑は腕の力を緩め、少し身体を離すと光の顎を人差し指で持ち上げる。
紫色の瞳に見つめられて光は視線をそらすことさえできない。
紫苑 「言ったはずです。俺は光さんを愛していると。」
光 「あい・・・してる?」
紫苑 「そうです。愛してます。」
光の大きな瞳から、ぽろりと一粒の雫が頬をつたうと、紫苑はたまらず唇を重ねた。
光 「し・・おん。」
紫苑 「・・・行きますよ。」
紫苑は唇を離すと、光の手を握って歩き出す。
光 「ちょ、ちょっとどこ行くねん?うわっ・・・亮太すまん。また来るわっ。・・・紫苑?」
紫苑 「・・・。」
紫苑は無言のまま、光の手をひいて大股に歩き続けた。
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