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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
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9月に入ったが、秋らしくなっていく気配さえない。朝から気温は30度を超えそうな勢いだ。光は湊たちと大阪入りし、祖父母の家で残りの夏休みを過ごしていた。
岸谷のニュースを見た後、すぐに紫苑から電話があった。今すぐ会いに来ると言われたが、光は断固として断った。

「来たら別れる」そう言って。

そして、それから連絡もとっていない。時々メールが来るが、光から返信をしていなかった。

俺・・・また、逃げようとしてるんやろか・・・?


もともと光に、父親はいなかった。
母親は繁華街のスナックで働き、光を育てていた。そんな母親が光の前から姿を消したのは、光がまだ幼稚園の時だった。光を幼稚園に迎えに来るのは、いつも祖母で、そのまま祖父母の家で過ごし眠ってしまってから、母親が自分のアパートに連れて帰る。だから、光が母親の顔を見るのは朝だけだった。しかし、時々朝目が覚めると知らない男が部屋にいた。そんな時、母親は女の顔をしていた。母親が連れてくる男の中には、ニヤニヤと笑いながら光の身体に触れる奴もいた。
そして・・・いつしか、母親の顔を見る事もなくなり、光の保護者は祖父母になっていた。
男を狂わせる魅力を持った女性だったと、まだ子どもの光に親戚の誰かが言っていた。
そんな母親も、今はどこで何をしているのかわからない。

それでも光は不幸ではなかった。

いつの間にか母親がいなくなってしまっても、光は泣かなかった。
光の悲しそうな顔をみて、辛そうな表情になる祖母を見る方が、よっぽど悲しかったから。だから、いつも笑っていた。
昔堅気の祖父は、怒ると怖かったが、それはいつも光のためだった。
祖父母からたっぷりの愛情を受け取って、光は育った。

そして兄弟のように、いつでも隣には栗林亮太がいた。
亮太の両親も光を息子同様可愛がってくれた。亮太と居る時間が一番楽しかった。
小学校の頃は野球少年だった。中学に入ると音楽に夢中になった。高校でバンドを結成して・・・いつも隣には亮太がいた。

だけど、ある日突然、亮太は消えた。
母親と同じように・・・それはあまりにも突然だった。
そして、二度と戻ってこなかった。

光が愛した人は皆、突然消えてしまう。
掴んだ幸せは、指の隙間からまるで砂のようにこぼれ落ちてしまう。
光の心のどこかに、そんなトラウマが刻み込まれているのかもしれない。

紫苑・・・怒ってるやろな。心配してくれてんのに、来るな言ってしもた。
どんな顔して会うたらええんか、わからんのや。

光は、岸谷や竜二に襲われそうになったのは、もしかしたら自分のせいなのではないかと思っていた。自分が何か男を誘うような言動をしていたのではないか?自分の母親のように・・・。
紫苑も自分の身体に夢中になった。そして何より光自身が紫苑と身体を重ねる事に夢中になった。紫苑に抱かれている時、光は幸せを感じる事ができた。

だから、怖いんや・・・。




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