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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
<妄想>です。
実在する地名・人名・団体名が登場しても、それは偶然ですので、まったく関係ありません。
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紫苑は東京へ戻った翌日、神宮寺グループの本社オフィスにいた。
社長用の応接室には、紫苑、莉薗、手塚、そして神宮寺虎之助が顔を突き合わせている。

ふたりは、東京に戻るとすぐに病院へ駆けつけたが、病室へ行ってみると、すっかりやつれた樫木翔と、顔色こそ優れないがいつもと変わらぬ神宮寺がいたのだった。
神宮寺久遠は心臓にペースメーカーを埋め込んでいて、今回はそのリード線が断線し心臓がうまく動かず倒れたとこのとだった。幸いすぐに処置をし、既に新しいものと交換する手術が行われ、感染症などの合併症がなければ1週間ほどで退院できるという。

ホッとしつつも、少し拍子抜けした紫苑と莉薗のところに、祖父である虎之助から「明日、ふたり揃ってオフィスに来るように」とのお達しがあったのだ。

莉薗 「で、手塚。零王はまだ見つからないの?」
手塚 「はい。昨日、病院へも行っていないようです。あまり体調がよろしくないので心配なのですが。」
莉薗 「まったく、こんな時に何を考えているのかしら。」
手塚 「零王様は、社長が倒れられたことをご存じないのではないでしょうか?」
莉薗 「それにしても・・・タイミング悪いわね。」

莉薗と手塚が話している隣で、紫苑と虎之助は無表情のまま睨みあっている。
莉薗は、そんなふたりを交互に見てため息をついた。

莉薗 「紫苑。今回ばかりは仕方ないわよ。零王の代理、私からもお願いするわ。」
紫苑 「俺は、紫苑だ。もう二度と零王の代理はごめんだと言ったはずだ。」
莉薗 「気持ちはわかるけど。」
虎之助「会社のためだ。諦めろ。」
紫苑 「じいちゃんがやればいいだろ。」
虎之助「俺はもう隠居したんだ。少しは手伝うが、社員が怪しむだろうが。」
紫苑 「隠居する歳でもないだろうが。世間の60歳はまだ働いてるぞ。」
虎之助「俺は世間の60歳より、もっと働いてきたんだ。」
莉薗 「もう、子供の喧嘩じゃないんだから。」

社長が倒れ、会社経営を手伝っている零王が行方不明であることが公になれば、社員の動揺や幹部クラスの派閥争いが懸念され、ライバル会社からも、どう足をすくわれるかわからない状態だった。そこで、虎之助が、紫苑を零王の代理とし、社長は急な海外出張というシナリオを作ったのだ。

虎之助「久遠が戻るまでの間だ。本人はすぐにでも戻るつもりらしいが、少し休ませてやりたい。」
紫苑 「・・・」
莉薗 「私も手伝うし、手塚だっているから、どうにかなるわよ。」
紫苑 「それは心配してない。Lumie`re (リュミエール)のレコーディングもライブも中途半端のままだ。」
莉薗 「うん。光さんの事が心配なのよね。」

紫苑が睨むと莉薗が首をすくめた。

虎之助「恋人と四六時中一緒にいるのが、いいこととは限らんぞ。時には距離を置いた方が、愛が深まるってもんだ。」
莉薗 「っていうか、おじいちゃんは相手の人数が多すぎて距離置かないとバレちゃうからでしょ?」
虎之助「今は、真喜子一筋だ。」
莉薗 「はいはい。」

本当は紫苑も、この状況では自分が零王の代理をするのも致し方ないと思っていた。
やっと地毛も伸び始めていたが、また黒く染めコンタクトも着用してここに来ていたのだ。

紫苑 「今回は、引き受ける。手塚、早く零王を探し出してくれ。」
手塚 「もちろんでございます。」

手塚が背筋を伸ばして頭を下げると、ポケットの中の携帯が震えた。
3人にことわり、手塚は部屋を出た。

莉薗 「あ~あ。私が代われるものなら代わってあげたいわ。なんで私だけ似てないのかしら。」
紫苑 「性格は一番親父に似てるのにな。」
虎之助「莉薗は、紫苑の秘書として一緒に行動しなさい。」
莉薗 「OK。やった。紫苑、よろしくね~」
紫苑 「・・・」

そこへ、手塚が戻ってきた。

手塚 「失礼します。零王様が空港に向かったとの目撃情報が入りました。」
莉薗 「空港!?国外逃亡か。」
手塚 「あの・・・。」
虎之助「許可する。・・・零王を頼む。」
手塚 「はっ、はい。」
莉薗 「いってらっしゃい!」

莉薗がヒラヒラと手を振ると、手塚は頭を下げて部屋を飛び出していった。

莉薗 「あんな、取り乱した手塚初めて見たわ。いっつも何考えてるのかわからない顔してるのに。」
虎之助「距離を置いてみて、気づく自分の気持ちもあるもんだ。」
莉薗 「なるほどね。・・・ですって、紫苑。」
紫苑 「うるさい。」

紫苑は光のことが気になりながらも、ここは気持ちを切り替えてやるしかないと腹を括り、立ちあがった。

紫苑 「準備するぞ。」
莉薗 「かしこまりました。零王様。」
紫苑 「・・・」
虎之助「後は、任せたぞ。」

虎之助は、我関せずと言わんばかりに、しれっとしながら部屋を出て行った。




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