紫苑と光はベッドに入っても眠れなかった。
紫苑が身体を動かす度に、光はビクリっと身体を震わせる。あの日からずっとそうだった。
紫苑 「光さん?・・・起きてます?」
光 「ん?」
紫苑 「こっち向いて。」
紫苑は少し離れて、自分に背中を向けて寝ていた光を抱き寄せた。
光はまた、ビクリと身体を固くする。
紫苑 「光さん?」
光 「・・・。」
紫苑 「俺が・・・怖いですか?」
光 「え?」
紫苑 「俺に触れられるの・・・嫌ですか?」
光は驚いて紫苑の顔を見た。暗闇のせいで紫色ではなくグレーに見える紫苑の瞳が揺れている。光は首を横に振った。
紫苑 「・・・無理しないで。」
光 「紫苑が怖いんやないで。」
紫苑 「はい。」
光 「・・・自分が・・・怖いねん。・・・自分も男やから・・・あんな風に欲望に支配されてしまうんが・・・怖いねん。」
紫苑 「俺は、欲望に支配された光さんを見てみたいと思います。」
光 「そんなん・・・紫苑、俺のこと嫌いになるかも知らんで?」
紫苑 「なりません。俺は、どんな光さんも好きです。」
光 「紫苑・・・。」
紫苑は光の前髪を掻きあげると、上半身を少し起こして光の額に鼻先に瞼に頬にキスの雨を降らせる。そして、唇を啄むように繰り返し何度も触れては離れそしてまた触れる。
光は紫苑の深い愛情を感じて胸が熱くなり、紫苑の首に両手をまわした。
光 「紫苑・・・。」
紫苑は光のおでこに自分のおでこをくっつけた。
紫苑 「今日はこれ以上しませんから、安心してゆっくり眠ってください。」
光 「紫苑・・・俺、嫌な訳やないねん。」
紫苑 「わかってます。今夜は莉薗がいますから、聞かれたら困るでしょ?光さんのいい声。」
光 「えっ?」
紫苑 「俺は、誰にも聞かせたくありませんから。」
紫苑は少しだけ口角を上げると、光の薄い唇を塞いだ。少し時間をおいて唇を離すとゆっくり光を抱きしめた。
紫苑 「さあ、寝ましょう。」
光 「ん・・・。」
光は紫苑の胸に顔を埋める。
光 「紫苑・・・ありがとう。」
紫苑 「おやすみなさい。」
それからほどなくして、光の寝息が聞こえてくると、紫苑はほっとして目を閉じた。
しかし、ふたりの寝息が聞こえたのはほんの僅かの時間で、すぐに外は明るくなり早々に玄関のベルの音で起こされることとなった。
莉薗が玄関の扉を開けると、目の前に立っていたのは、背が高く色白で銀縁めがねを掛けた神経質そうな男だった。
莉薗 「手塚。」
手塚 「おはようございます。莉薗様。」
莉薗 「手塚ひとり?零王は?」
手塚 「零王様は夕べから体調が優れず、検査の為に病院へ行かれました。私は零王様の命令で、梨里香様をお迎えに参りました。」
莉薗 「ふぅん。まぁ、色々聞きたいこともあるから、とりあえず上がって。」
莉薗と手塚がリビングに入って来ると、湊が紅茶を入れていた。
莉薗は手塚に湊が梨里香の兄であること、そして晴樹を紹介した。晴樹は少し離れた所に立っている。湊は2人に紅茶を出すと、梨里香を起こしに部屋へ戻った。
莉薗 「ねぇ、手塚は零王と付き合ってるんでしょう?」
手塚 「とんでもございません。私は、幼少の頃から零王様のお世話係で今では秘書として働かせていただいている身でございます。」
莉薗 「そんな建前はどうでもいいのよ。梨里香ちゃんが見せつけられたって言ってたわよ。」
手塚 「それは・・・。」
莉薗 「それは、何?」
手塚 「それは・・・零王様がペットと称して精処理をさせている少年達のひとりです。」
莉薗 「はぁ。・・・病んでるわね。あんたは、それでいいの?」
手塚 「・・・」
手塚の表情は読みにくい。莉薗の鋭い言葉に少しだけ視線を外した。
そんな話をしていると、湊が梨里香を連れて戻ってきた。
そして、その後ろにはいつもと変わらない紫苑と、寝起きのせいか少し顔がむくんだ光も立っていた。
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