紫苑は部屋に戻っても、とても眠れる気がしなかった。光もベッドに腰掛けて黙り込んでいる。
紫苑 「光さん?何か飲みますか?」
光 「ん?そうやな。」
紫苑 「お酒がいいですか?」
光 「いや・・・アルコールやないほうがええ。」
紫苑 「わかりました。」
紫苑は部屋を出てキッチンへ行くと、カモミールとミントをブレンドしたハーブティーを入れて戻ってきた。
部屋に入ると、奥のソファーにちゃっかり莉薗が座っている。
紫苑 「何してんだよ。」
莉薗 「作戦会議?」
紫苑 「・・・」
紫苑もそれ以上何も言えなかった。
莉薗はそんな紫苑を横目で見ながら、光に目をやると話しかけた。
莉薗 「梨里香ちゃんの好きな人って、ハルさん?」
光 「え?」
莉薗 「ここは手の内全部出して協力し合いましょうよ。」
光 「・・・そうやな。・・・たぶん、ハルやと思う。」
光と湊や晴樹は高校1年生のときに知り合ってバンドを結成した。今と同じように当時も湊の家が溜まり場になっていたので、自然に梨里香と顔を合わせることも多かった。当時はまだランドセルを背負っていた梨里香は、光達が集まっているとよく湊の部屋にやってきては、晴樹にまとわりついていた。晴樹も女の兄弟がいないので、妹のように可愛がっていた。ただ、光達が東京に出てくる頃には梨里香も年頃になり、ベタベタとくっついたりすることもなくなっていたという。
光 「こっち来てからも連絡しとったんは知らんかった。」
莉薗 「ハルさんはどうなんだろ?梨里香ちゃんのこと好きなのかな?」
光 「どうやろな。・・・妹みたいに思ってるんやないやろか?」
紫苑がテーブルにハーブティーの入ったカップを置くと、光もベッドから移動してきてソファーに腰掛けた。
紫苑 「零王の好きな人って誰だよ?」
莉薗 「手塚。」
紫苑 「はぁ!?」
莉薗 「手塚真司。零王の秘書。」
紫苑 「マジか?・・・片思いってわけじゃないよな。」
莉薗 「あたりまえ。さっき梨里香ちゃんが見せつけられたって言ってたじゃない。」
莉薗は珍しく小さなため息を漏らした。
光 「相手の人って男の・・人なん?」
莉薗 「真司だからね。・・・まぁ、血筋なのかしら?」
莉薗は、チラリと紫苑を見た。
紫苑 「なんだよ。俺はこの人だけだ。」
莉薗 「ぷっ。紫苑はわかりやすいわよね。・・・しっかし零王だけは、パパ以上に何を考えているのかわからない。」
紫苑 「・・・。」
光 「なんでお見合いなんかしたんやろ?」
莉薗 「どうやら、その手塚の提案だったらしいのよね。」
光 「えっ?自分の恋人やのに?」
莉薗 「何を企んでいるのやら・・・。」
神宮寺は大阪の駅前に大きなホテルを建てたいと考えていて、大阪の実力者である湊不動産にコンタクトをとったという。東京進出の足掛かりを探していた湊不動産の社長、湊倫太郎は二つ返事で手を組むことを承諾した。
契約等の話の後などに、倫太郎は末娘の自慢話をしていて、「神宮寺さんみたいな家に嫁がせたい」と言っていたという。いわゆる社交辞令的な話ではあったのだが。
神宮寺は取引相手との会話はいつも録音している。そして、会社に戻ると必ず聞き直す。
その作業をしているときに、零王とその秘書の手塚が同席することは珍しくない。
そして、この話を聞いた後に、手塚は「それなら零王様、結婚されたらどうですか?」と言ったらしい。それに対して零王は、いつもの微笑みのまま「そうだね。それはいいアイディアだ。」と言って、神宮寺が話を進めることになった。
莉薗 「パパはね、本当は零王と手塚の関係に気づいてると思うのよ。」
紫苑 「だろうな。」
莉薗 「零王が手塚を試したのか、手塚が零王を試したのか、それともふたりの共謀なのか・・・。どっちにしても、梨里香ちゃんには関係ないし、迷惑な話よ。」
光 「梨里香ちゃんも、なんや家の事情でむりくり決心したみたいやったしな。」
莉薗 「そりゃそうよ。・・・ここはハルさんが強引に梨里香ちゃんを奪ってくれるといいんだけどなぁ。」
光 「・・・ハルのそういう姿、あんまり目に浮かばんな。」
紫苑 「・・・ですね。」
莉薗 「はぁあ~」
莉薗は伸びをして大きなあくびをすると立ちあがった。
莉薗 「そろそろ寝るわ。たぶん明日には零王と手塚がここに来ると思うわよ。」
光 「ええっ!?」
紫苑 「わかった。」
莉薗 「あのふたりの腹の内がわからないと手の打ちようがないってことがわかったわ。」
紫苑 「・・・。親父は何か言ってた?」
莉薗 「何も。高みの見物ってやつ?」
紫苑 「だろうな。・・・零王が行動を起こしたことは少し喜んでるかもしれないけど。」
莉薗 「そうなの?・・・確かに初めての反乱だわね。それだけにやっかいだわ。」
莉薗は扉までゆっくり歩くと振り返った。
莉薗 「やり過ぎ注意ね!私の部屋まで声聞こえるから。」
紫苑 「ばっか!するわけねーだろ、こんな時に。」
莉薗 「あら、残念。じゃ、光さんもゆっくり休んでね。」
光 「あっ・・・おやすみなさい。」
莉薗はウインクすると部屋を出て行った。
ふたりっきりになると、部屋が急に静かになった。紫苑と光はこの伊豆に来てから一度も身体を重ねていない。雅紀との再会で光の心が不安定になったことや、その雅紀と一緒に襲われたショックなどを考え、紫苑は手を出せずにいたのだ。
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