翔 「さてと、・・・君が暁くん?」
暁 「は、はい。」
翔 「雅紀?ごめんね。本当は段取り付けてから会わせようと思ってたんだけど、暁くんは雅紀が心配で来ちゃったみたい。」
雅紀 「・・・。」
翔 「ふたりで話しする?」
雅紀 「いえ。・・・暁、帰れよ。話すことなんて何もない。」
暁 「俺はある!急にいなくなって、どんだけ探したと思ってんだよ。」
雅紀 「探してくれなんて頼んでない!メールしただろ、辞めるって。・・・もう、歌えないんだ。」
暁 「どういうことだよ?・・・って、お前らその怪我どうしたんだ?」
暁は、青あざだらけの光と雅紀の顔や身体を見て驚いた。
光 「あっ・・・これは・・・」
雅紀 「暁には関係ねーよ!」
暁 「関係大ありだよっ!」
暁はずかずかと歩いて雅紀の前に立つと、屈んでその青白い頬を両手で掴み揺れる瞳を覗き込む。
暁 「どんだけ心配したと思ってんだ。・・・こんな青い顔して。こんな傷だらけになって。・・・俺がどれだけ・・・。」
雅紀 「っ!?」
最後は涙声でそう言うと、強引に唇を重ねた。
光 「えっ!?」
目の前でふたりのキスシーンを見せつけられた光は、後ろに飛び退いて目を丸くした。
紫苑はしゃがみ込む光をそっと立ちあがらせ、腰を抱いてダイニングまで連れてきた。
暁 「もう、絶対離してやらねーから。で、俺が歌えるようにしてやる。」
雅紀 「あきら・・・?」
ほんの少し紅がさした雅紀の頬に、ひとつぶの涙が流れた。
翔 「暁くん、上の部屋使っていいから、雅紀とゆっくり話して。」
暁 「あっ、はい。ありがとうございます。」
和樹 「あっ、ここでセックスは禁止だぞ!」
暁 「しっしませんって。」
和樹 「ここでは・・なっ。雅紀。」
雅紀 「・・・。」
翔 「雅紀、もう意地は張らなくていいんじゃない?素直になって暁くんと良く話してみて。」
雅紀 「・・・。」
雅紀は無言でソファーのひじ掛けに手を置き、ゆっくり立ちあがる。すぐに暁はその腰を支えて歩き、リビングを出て2階へ向かった。
2人が行ってしまうと部屋はまた静かになった。
翔 「これでひと安心かな。暁くんがしっかりした子でよかったよ。」
和樹 「俺と全然似てねーだろ、あれ。」
翔 「共通点は色黒だけだな。まぁ、雅紀もほっとした顔してたよな。」
和樹 「ずっとみつけて欲しかったんだろうよ。それに、そこの兄ちゃん助けたことでちょっとは救われたんじゃねーの?」
翔 「そうだね。・・・光くん?大丈夫かな?」
光 「あっ・・・はい。暁が来てくれてよかった思います。」
翔 「そうじゃなくて、君のことだよ。」
光 「俺・・・ですか?」
翔 「そう。今度は君が歌えないとか言わないでね。」
光 「・・・」
紫苑 「光さん・・・?」
光 「ん?」
紫苑 「少し散歩しましょう。」
光 「・・・あぁ。」
紫苑 「翔さん、あとのことよろしくお願いします。」
翔 「うん。こっちは大丈夫だよ。」
翔は紫苑にウインクをすると、光の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
コテージを出ると、紫苑は光の手を握って歩き出した。
光 「紫苑!目立つやろ。」
紫苑 「いいんです。」
光 「いいって・・・ていうか、どこ行くねん。」
それ以上何も言わず大股で歩く紫苑の後ろを、光は小走りでついて行く。
辿り着いた場所は、チャペルの入り口だった。
光 「い、いやや。入りたない。」
紫苑 「俺が一緒だから大丈夫です。・・・気持ちはわかりますけど、ここを嫌な思い出の場所にしてほしくないんです。」
光 「紫苑・・・。」
紫苑 「俺達、いつかここで結婚式するんですよ?」
光 「なっ何言うてんねん。そ、そんなんわからんやろ?」
紫苑 「わからないんですか?・・・光さんの気持ちは変わってしまうんですか?」
光 「そんなこと・・・。」
紫苑 「入りますよ。」
紫苑は扉を開くと、光の肩を抱いて強引に歩き出した。
小窓から夕陽が射し込み、教会の中はオレンジ色に輝いている。
光は紫苑にしがみついた。どうしても襲われたときの記憶がよみがえる。そして男達の性欲に塗れたシーンが同時に脳裏に浮かんで、恐怖と嫌悪感に支配されそうになる。
それでも紫苑は無言のままマリア像の前まできて、震える光をぎゅっと抱きしめた。
紫苑 「光さん・・・これ。」
紫苑は身体を少し離すと、ポケットから黒いヘアピンを取り出して、掌に乗せた。
光 「あっ、それ・・・俺んや。」
紫苑 「これをここで見つけた時、俺は心から後悔しました。あなたから離れたことを。」
光 「紫苑・・・。」
紫苑 「もう二度と、あんな後悔はしたくありません。・・・あなたは何も悪くない。雅紀さんも言ってたじゃないですか。だからまず、自分を責めることをやめてください。」
光 「・・・」
紫苑 「今、詩うことを躊躇っていたとしても、あなたは詩うことをやめられない。やめられるはずがないんです。・・・世の中キレイゴトだけじゃない。酷い経験をしたり辛い思いしたりしている人が沢山います。そんな人達をも勇気づけられる詩をうたってください。」
光 「紫苑・・・。」
紫苑 「あなたにはそれが出来るはずです。そして・・・俺はいつも、そんなあなたの隣にいます。二度と離れません。」
紫苑は光を抱きしめ、そして光の頬を掌でつつむと優しく唇を重ねた。
紫苑 「誓います。あなただけ守り続けることを。光さん、あなたを愛してます。」
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