2日後の夕方、光はやっと雅紀に会わせてもらえることになった。
竜二とその取り巻きがその後どうなったのかはわからない。楽園のアクター達は東京に戻ったので、コテージには翔と和樹と雅紀だけが残っているらしい。
あれから光は一度も歌っていない。
紫苑は光が何を言っても、常に光のそばから離れることをしなかった。
光と紫苑がコテージのチャイムを鳴らすと、すぐに翔が扉を開いた。
翔 「いらっしゃい。あがって。」
光 「雅紀は?」
翔 「リビングにいるよ。」
光が小走りにリビングに入ると、雅紀は一人掛けのソファーに柚子を抱いて座っていた。その向かい側にある3人掛けのソファーには和樹が横になっている。
光 「雅紀!」
光は雅紀に駆け寄って抱きついた。
驚いた柚子が雅紀の膝から降りて、和樹の腹の上に飛び乗った。
和樹 「おえっ!お前俺を殺す気か?・・・今の俺の腰は、たかが猫1匹の体重も支えられねぇんだよ。ふぅ。」
光に抱きつかれ、和樹の様子を見ながら雅紀は微笑んでいる。
それを見ていた紫苑は、唇をきゅっと結んだ。後ろからついてきた翔は、そんな紫苑の肩をぽんぽんと叩いて、ダイニングの椅子に座るよう促して自分も腰かける。
雅紀 「ほら、百瀬。俺にあんまりくっつくと彼氏が面白くないだろ。」
光 「雅紀・・・ほんまごめん。俺の・・ために・・ごめん・・雅紀」
雅紀 「あのさ、勘違いするなって。別に百瀬の為だけに、あんなことしたわけじゃないよ。・・・まぁある意味、自分のためさ。」
光 「そんなわけないやろ。」
雅紀 「あるんだよ。・・・俺が失くしてしまったものを持っている百瀬を守れたら、自分も・・・少しは救われるんじゃないかって思ったんだ。」
光 「・・・」
雅紀 「だから、そんな顔するなって。なっ?・・・抱きつく相手は俺じゃないだろ。・・・百瀬には好きな人と幸せになって欲しいんだ。」
光 「雅紀・・・」
雅紀 「今回のことで、百瀬がセックスは好きな人とするもんだって言った意味が、少しだけ理解できたよ。欲情だけのセックスと愛情のあるセックスはきっと違うんだろなって・・・まだ想像だけどさ。あのオッサンのおかげ。」
雅紀はそう言って和樹を見ると、くすっと笑う。
和樹 「ばぁか!こっちも必死だったんだ。・・・でもあれは、現実じゃねーぞ。幻ってやつだ。ちゃんと本物探せよ。はぁ、もう当分やりたくねー」
雅紀 「くくくっ。・・・だからさ、百瀬はもうあの時のことは忘れろ。」
光の顔は涙でぐちゃぐちゃだ。
雅紀は光の身体を自分から離すと、指で光の頬をつたう涙をぬぐう。
その右手には白い包帯が巻かれている。
光 「手・・・痛むか?」
雅紀 「たいしたことないよ。何度も刺したけど、どれもそれほど深くない。無意識に手加減したんだと思うよ。それにしても、何も利き手にしなくてもな。」
光 「それは・・・左手でマイク持つからやろ。」
雅紀 「・・・」
光は、少し驚いたように目をまるくしている雅紀の両手首を持って、その瞳を覗き込む。
光 「無意識にマイクを持つ手をかばったんやろ。・・・ほんまは歌いたいんやろ?」
雅紀 「・・・だから、無理なんだって。それは・・・もう歌えない。」
雅紀が大きく首を横に振ると、玄関のチャイムが荒々しく何度も鳴り響いた。
翔が立ちあがると同時に、鍵を掛けていなかった玄関の扉が開いて、バタバタと足音が聞こえてきた。
???「雅紀!まさきーーー!雅紀どこだ!?」
???「あかんって。約束したやろ。翔さんと話してからやって。クシュッンッ!」
リビングに飛び込んできたのは、暁と湊だった。
暁 「雅紀!?」
雅紀 「!?」
雅紀と暁の視線がぶつかり、ふたりとも微動だにしない。
誰も物音ひとつ立てず、まるで時間が止まったかのように静まり返った。
湊 「はっ・・・ハックションっ!・・・ふぁっくション!・・くしゅっ・・」
その静寂を破ったのは、湊の大きなくしゃみだった。
和樹 「おいおい、大丈夫か?」
紫苑 「湊さん、猫アレルギーなんです。」
和樹 「うおっ。こいつのせいか?」
和樹はそう言うと、腹の上で丸くなっている柚子の両耳をつまむ。
柚子 「にゃぁ~」
何するんだよ。と言わんばかりに柚子が和樹を睨みつけた。
翔 「はははっ。湊くん、こっちはどうにかするから大丈夫だよ。」
湊 「ほんますみません。くしゅっ。今日会えるって・・・連絡したらすっ飛んできて、到着するなり連れて行けって煩くて・・・。ハックシュッ!」
翔 「ご苦労さま。ありがとう。」
湊はそのまま部屋を出て言った。
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