<光の部屋・深夜>
光が目を覚ましてゆっくり瞼を開くと、そこは見なれたベッドの横にある壁だった。
部屋は真っ暗で、雷鳴はもう聞こえない。枕元の時計を見ると、真夜中だ。
もちろん、紫苑の姿はどこにもなかった。
紫苑に、きちんと謝れへんかった・・・。
紫苑は、怒っている風ではなかったけれど、それが光にはかえって辛かった。
いっそ、思い切り怒られて愛想を尽かされたほうが、ましな気がしていた。
俺、どうしたらええんやろ・・・。
今朝、目が覚めたら、美郷ちゃんとラブホにいて・・・美郷ちゃんにエッチした言われて・・・
まったく記憶がなくて・・・罪悪感で・・・責任とらなあかん思って・・・
そやけど、これでほんまに良かったんやろか?
好きでもないのに、付き合おうやなんて言ってしもて・・・
こんなの、美郷ちゃんに余計ひどいことしてるんちゃうやろか?
紫苑ことも、夕べはあんなに幸せな気持ちで自分から好きや言うてたのに・・・
今日になって、いきなり美郷ちゃんと付き合う言われた紫苑は、どんな気持ちやったやろか?紫苑も、俺ん事好きや言うてくれてたのに・・・これって、紫苑こと裏切った言うことやないか?
俺、何してるんやろ・・・?あほや・・・。
紫苑・・・紫苑こと、こんなに好きやのに・・俺、他の人とキスしたりエッチしたりなんてできん。紫苑やなきゃ、嫌や・・・。
光 「紫苑・・・好きや・・・」
光は布団を被って、声を殺して泣いた。
パニックにならないように、過呼吸にならないように・・・。
でも、やっぱり紫苑のことを想うと胸が痛くて苦しくて、どうしても心が乱れてしまう。
気づくと紫苑の名前を呼びながら嗚咽をもらして泣いていた。
しばらくすると、玄関の鍵がカチャリと開いて、静かに扉が開いて閉じた。
入ってきたのは紫苑だった。紫苑は光の様子に驚いて駆け寄った。
紫苑 「光さん!?」
布団を剥いで抱きしめると、光は驚いて身体をビクリと震わせた。
光 「!?・・・紫苑?」
紫苑 「大丈夫ですか?」
光 「紫苑・・・ごめん。ごめんなさい。俺、俺・・・最低や。紫苑にも美郷ちゃんにも酷いことしとる。・・・亮太ん時と同じや・・・。」
紫苑 「・・・」
紫苑は何も言わず抱きしめた光の背中を優しく擦っている。
光 「また、逃げようとしたんや・・・。」
光は、幼馴染で大好きだった亮太にキスをされ、セックスがしたいくらい好きだと告白されたが、その現実を受け止められず、逃げた。自分の本当の気持ちを確かめることもできず、亮太に伝えることができなかった。
美郷のことを好きでもないのに、酔っていて覚えていないとはいえ、ホテルに誘ってエッチまでしてしまった。責任をとるために付き合うと言ったが、それは結局、現実から逃げたのだ。本当は紫苑の事が好きなのに・・・。
光は紫苑の胸で泣きながら、夕べの出来事や今の自分の気持ちを全てを話した。
光 「紫苑・・・ほんま、ごめんなさい。」
紫苑 「無理して身体を酷使しているから、ちょと強めのアルコールを飲まされて、記憶が飛ぶほど酔っぱらってしまうんです。」
光 「飲まされて・・・?」
紫苑 「家に着いたと言われて、ホテルに連れ込まれるほど酔っぱらって、睡眠導入剤なんか飲まされて。一歩間違えたら、死にますよ?」
光 「睡眠導入剤・・・?」
光は紫苑の言っている意味がよくわからなかった。
紫苑は、光を抱きしめていた力を少し緩めて、その目を見つめた。
紫苑 「光さん?・・・美郷さんとセックスして気持ちよかったですか?」
光 「!?」
光は、下を向いて首を大きく振った。
光 「わからん。全然覚えとらん。どうやってしたのか想像もできん。」
紫苑 「反省、してますか?」
光 「反省しとる。」
紫苑 「それなら、教えてあげます。」
光 「・・・?」
紫苑 「あなたは、美郷さんとセックスしていません。」
光 「えっ!?」
紫苑 「今、莉薗から電話がありました。」
莉薗は、あの後どうにも腹の虫が治まらず、美郷と直接対決をしたらしい。
美郷の妹、美緒が現在付き合っているサッカー部のキャプテンは、美緒と付き合う前に莉薗に告白していたらしく、それをネタに美緒を巻き込んで美郷に真実を聞きにいったとか。
そのやり方の強引さは、父親譲りだと紫苑は思った。
美緒の協力もあり、最終的には全て正直に話してくれたそうだ。
そして莉薗は、お礼に美郷に素敵な彼氏を紹介すると約束してきたらしい。
莉薗に借りが出来てしまったな・・・。
紫苑は莉薗との電話の内容を思い出してため息をついた。
光 「紫苑・・・ほんまに?」
紫苑 「はい。」
光 「よかった・・・ほんまよかった。ありがとう。」
紫苑 「お礼は莉薗に。」
光 「うん。」
紫苑 「美郷さんのしたことは悪いことですけど、あなたにも隙がありすぎです。」
光 「そうやな。・・・俺、ちゃんと美郷ちゃんに謝る。」
紫苑 「そうですね。そうして下さい。」
紫苑はそう言うと、光をぎゅうっと抱きしめた。
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