<光のアパート・午後>
紫苑は、光のアパートの外階段に腰掛けて、どこまでも青い空を見ていた。
紫苑は一年前、好きでもない女たちを何人も抱いてきた。
ただ、女を抱けるのだということを証明したくて。
だけど、たとえ性欲のままに身体を重ねても、心が満たされることはなかった。
だから、同じ女を2度抱くことはなかった。
そんなことを繰り返しているうちに、自分がどんどん嫌になっていった。
自分は誰かを好きになることなんて出来ないのだと思っていた。
・・・そして、光と出逢った。
男を好きになることをあれほど拒んでいたのに、どんどん魅かれていった。
そして心を通わせ身体を重ねた。
確かにあの人も俺を求めていた。そう確信していたのに。
でもそれは、俺の思いあがりだったというのか・・・?
あの人のことだから、何か理由があるのかもしれない。
でも、「俺、美郷ちゃんと付き合うことにしたから」光は確かにそう言ったのだ。
あの人は、俺みたいに遊びで女を抱くことなんてできない。
じゃぁ、美郷のことが本気で好きだと言うのか?
夕べ、見た限りではそんな様子はなかった。それなのに一晩で何が変わったというのだ?
紫苑は大きなため息をついた。
<街・午後>
光は美郷を送ったあと、ガンガンと響く頭痛を堪えながら自分のアパートに向かって、足早に歩いていた。
紫苑、怒ってるやろな・・・。
もう俺、嫌われてしもたな。軽蔑されたやろか?
なんで、こんなことになってしもたんやろ。
光は紫苑のことを想うと、溢れ出る涙を抑えることが出来なかった。
大きな瞳から、ぽろぽろと雫が零れ落ちる。胸が痛くて苦しくて右手で心臓を押さえながら、下を向いて歩いた。
俺、こんなに紫苑のことが好きやのに。紫苑とずっと一緒にいたいのに。
なんでや?なんで、美郷ちゃんとそんなことになったんやろ?
確かに夕べはアルコールのまわりが早かったけど、酔ってたからってラブホ泊ろうとか俺、ほんまに言ったんやろか?ラブホなんて泊ったこともないのに。
ほんまに美郷ちゃんとエッチしたんやろか?
でも・・・美郷ちゃんがした言うなら、したんやろな。
まったく覚えとらんなんて、最低な男や。ちゃんと責任とらなあかんねん。
紫苑にも、ちゃんとあやまらなあかんな。
許してくれるやろか?バンドは続けてくれるやろか?
紫苑・・・紫苑、紫苑、紫苑、紫苑・・・好きや。
・・・苦しい。
空はこんなに青いのに、遠くで雷鳴が低く響いている。
光は、そっと顔をあげてあたりを見渡すと、遠くの空が真っ暗になっていた。
その闇が自分を襲ってくるような恐怖を感じて、光は身体を固くした。
あかん。はよ帰ろう。
光は痛む胸を押さえながら走り出した。
<光のアパート・午後>
光が息を切らしてアパートにたどり着くと、外階段に紫苑が座っていた。
光 「紫苑・・・?」
紫苑 「おかえりなさい。」
光 「・・・なんで?」
それには何も答えず、紫苑は立ちあがってお尻の汚れをはたいた。
その瞬間、近くで大きな雷鳴が響いた。
光は驚き、目を閉じて呼吸を止めてしまった。
走ってきて乱れていた呼吸を、一瞬で止めてしまったことで、呼吸の仕方がわからなくなる・・・過呼吸になるときのパターンだ。
不安に襲われ、カタカタと震えだした光を、紫苑が抱きしめた。
紫苑 「光さん?」
光 「・・・」
紫苑 「早く、部屋にはいりましょう。」
紫苑はそう言うと、光を抱きかかえるようにして階段を登り、光のジーンズのポケットから鍵を取り出して玄関の扉を開けた。
柚子が玄関まで迎えに来て、主を心配そうに見上げて鳴く。
部屋に入ると、紫苑はもう一度光をぎゅうと抱きしめた。
光は少しずつ、呼吸のリズムをとりもどしていく。
紫苑 「光さん?大丈夫ですか?」
光 「・・・紫苑、ごめんな。・・・俺・・・。」
紫苑 「今は、・・・何も言わなくていいです。」
紫苑は光に薬箱の場所を聞き、光をベッドに座らせて、水と薬を持ってきた。
光はその薬を掌で受け取ると、一瞬電極が繋がったように、夕べの一場面を思い出した。
そうや、ゆうべこんな風に美郷ちゃんから薬を受け取って飲んだ・・・。
・・・カラオケボックスやったやろか?・・・ホテルやったのやろか?
しかし、それ以上は思い出せそうもなく、かわりに頭痛が更に酷くなっていくようだった。
光 「・・・紫苑。」
紫苑 「このまま、眠ってください。雷が聞こえなくなるまでここにいますから。」
光はどうしても紫苑の目を見る事が出来ない。
ベッドに横になりながら紫苑の腕を引っ張ると、紫苑は黙って隣に横になり光を抱きしめる。
光は紫苑の体温を感じながら、あっという間に深い眠りに落ちていった。
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