<ホテル・午前>
光は水の流れる音を聞きながら目を覚ました。
ぼぉっとしながら瞼を開くと、見なれない天井が見える。その瞬間、この上ないほどの頭痛に見舞われた。
光 「痛っ。」
光はこめかみを押さえながら身体を半分起こし、周りを見渡す。
部屋に窓はなく薄暗い。
光 「ここ・・・どこや?・・・!?」
そして布団の中にいた自分がボクサーパンツ1枚だということに気付いた。
光 「なっ、なんでや?」
光は記憶の糸をたどろうと、ガンガンと音がするような痛みを堪えながら頭を回転させた。
えっと・・・カラオケボックスで明け方までバイトして・・・終わった後、バイトメンバー数人でカラオケボックスの一部屋を借りて飲んだんや。
それで・・・。それで?・・・あぁ、湊んとこで飲んだハーブティーみたいな綺麗な色のカクテルを飲んで・・・・。飲んで・・・酔っぱらった?・・・なんや、寝不足のせいかいつもより酔いが早いなぁ思って・・・先に帰る言うて、店を出たんや。
店を出て・・・店を出て・・・?・・・店を出て・・・。
光はどうしても、明け方店を出てからのことが思い出せない。店を出て、この怪しげな部屋にどうやって来たのか?
すると、目覚めてからずっと聞こえていた水の音が止まった。
カチャリと、扉が開くとそこには、髪を上げてバスローブ一枚の美郷が立っていた。
シャワーを浴びていた美郷は、少し上気した顔で光をみた。ベッドの上に起き上がっていた光と視線がぶつかる。
光はあわてて、掛け布団を肩の方まで持ち上げた。
美郷 「あっ。光くん目が覚めた?」
光 「美郷ちゃん・・・?ここどこ?」
美郷は髪を下ろしながらベッドに近づき、光の横に腰掛けた。
美郷 「ラブホだよ。・・・って、光くん覚えてないの?」
光 「え?・・・何を?」
美郷 「夕べ・・・っていうか、今朝の事。」
光 「・・・?」
美郷は光の顔を覗き込んで、話を始めた。
バイトが終わってから数名で飲んでいたら、光が先に帰ると店を出たので美郷も一緒に帰ろうと追いかけてきたという。すると、光は足もとがふらふらとしていて、危なげだったので美郷が腕を組んで一緒いに歩いていると、「美郷ちゃんの胸が腕に当たってへんな気分になってきた。ホテル行っちゃおうか?」って誘ってきたという。美郷は光を好きなので、OKしてこのホテルに入ったと。
光 「え?・・・俺が誘って、ホテル・・・?」
美郷 「えぇ!?まさか、美郷とエッチしたことも覚えてないとか?」
光 「!?・・・お、俺が美郷ちゃんと!?・・・ほんまに?」
美郷 「ひどぉい。嘘つくわけないじゃん。」
美郷は涙目で光を見つめると、光の手をとってバスローブの上から自分の胸にあてた。
光 「!?」
光は身体を固くする。
美郷 「もう一回する?そしたら思い出すかも。」
美郷の顔が近づいて来たので、光は慌てて下を向いた。
すると、目の前にはバスローブからはみ出しそうな胸の谷間が見えた。
光は胃の奥からこみ上げるものを感じて、口を押さえベッドを下りて、トイレに駆け込んだ。胃の中には何もなく、水分だけを吐き出した。
光はトイレから出ると、ベッドの上に座っている美郷に、声をかけた。
光 「なんや、二日酔いみたいやから俺もシャワー浴びてええか?」
美郷 「どうぞ~。・・・酔い覚まして思いだしてね。」
うそや。俺が美郷ちゃんとエッチ?・・・どうやってした言うねん?
紫苑とエッチした時みたいな、腰の重さや身体の軋むような痛みも倦怠感もない。
それは、紫苑を受け入れた為のものなのだから、当たり前だ。
そしてもちろん、あの幸福感も・・・ない。
俺が、美郷ちゃんを抱いた?・・・女の子を抱いた?
女の子とエッチした後って、どんな感じになるんやろ?
光は女の子とエッチしたことなんてない。想像もできない。
でも、美郷は自分とエッチしたという。嘘をついているようにも見えない。
光は熱いシャワーを浴びながら、夕べのことを思い出そうと必死だった。
でも、どうしても思い出せない。
美郷をホテルに誘って、エッチをした・・・?
光は自分が信じられなくなってしまった。
紫苑をこんなに好きなのに。好きでもない女の子とエッチするなんて。
お酒を飲んで酔っていたから?酔っていても自分に意志はあるはずなのに。
光は泣きだしそうになるのを必死でこらえ、シャワールームを出た。
ソファに置いてあった自分の服を着て、ベッドに横になっていた美郷に近づいた。
美郷もすでに服に着替えていた。
光 「美郷ちゃん。ほんまごめん。俺、どうしても思い出せないんや。」
美郷 「・・・もう、いいよ。・・・男の人はそうやって言い訳すればいいんだもんね。」
光 「そ、それは・・・」
美郷 「いいよ。私、光くんの事が好きだから。・・・遊びだったとしても嬉しかった。」
光 「・・・」
光は自分が、すごく卑怯な人間のように思えた。
もし自分が、大好きな人とエッチしたのに、相手が覚えていなかったら?
たとえ酔っぱらっていたとしても、自分は嬉しくて幸せな気持ちで目覚めたのに、相手に冷たくされたら?
もし、紫苑にそんなことされたら俺・・・辛すぎるな。
光 「美郷ちゃん。覚えてなくて、ほんまごめん。・・・そやけどちゃんとするから俺。」
美郷 「ちゃんと・・・?」
光 「その・・・ちゃんと、付き合おうな。」
美郷 「ほんと!?光くんの彼女にしてくれるの?」
光 「・・・うん。」
美郷 「やったぁ。嬉しい!・・・もちろん、ファンの子にはバレないようにするからね。」
美郷は無邪気に光に抱きついた。
光は、胸の奥がズキリと痛み、少し遠のいていた頭痛がまた激しくなっていた。
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