何してるんやろ俺・・・。
光は、帰ろうとした紫苑を咄嗟に引きとめた自分の行動に驚いていた。
雷は嫌だったけれど、もうだいぶ遠くなっていたし、怖かったわけではない。
ただ、もう少し紫苑と一緒にいたかった・・・?
あんな意地悪みたいなキスをされたのに。
亮太は俺にキスした時、「好きや」って言ったんや。
紫苑は、そんなこと言わん。
亮太んとは全然違うあんなエロいキスして、「これが本当のキスです」って言いおった。
俺のファーストキスをいただいたって・・・。
そんなん言われてビックリしたけど、嫌やなかった。
嫌やなかったけど、・・・なんでそんなことするんやろ?
風呂から上がってきた紫苑は、黒のカラコンを外していた。
紫色の瞳があまりにも綺麗で、光は思わず近づいて覗き込んだ。
すると「誘っているのか?」と言われた。
光は慌てて身体を離したが、今度は何も着ていない紫苑の上半身が視界に入って目のやり場に困った。自分とはまったく違う骨格に、厚みのある筋肉がついている。
この胸に抱きしめられていたのかと思うと、なぜか顔が熱くなって俯いた。
なんで俺・・・男の裸見て赤面してるんやろ?
なんや俺、おかしなことになっとるな・・・なんやねん、これ。
紫苑 「大丈夫ですか?雨に濡れて熱でもでてきましたか?」
光 「え?・・・だ、大丈夫や。」
紫苑が心配そうに光の顔を覗き込むのに、光は慌ててキッチンに向かった。
光 「コーヒーで、ええか?」
紫苑 「あ、はい。いただきます。」
光はコーヒーを持ってベッドに腰掛け、紫苑はベッドを背もたれに床に座って膝に柚子を乗せて撫でている。
光 「なぁ、紫苑はどうしてもバンドやりたないん?」
紫苑 「バンドが嫌っていうか、人と深くかかわるのが苦手なんです。Lumie`re (リュミエール)の皆さんは良い方だと思いますけど、深く付き合えばぶつかることもあると思うし。俺、良くわからないんですよ、人との付き合い方が。」
光 「そんなん、紫苑のままでええと思うで。それでぶつかるんやったらぶつかったらええし、言いたいこと言って仲直りすればええやん。」
紫苑 「・・・まぁ、Lumie`re (リュミエール)の曲もあんたの歌も好きなので、趣味でやるならいいかもしれませんけど、プロになるなら、そこまでは無理です。」
光 「目立ちたないから?」
紫苑 「はい。俺が俺のままでいたら絶対目立ってしまうんで。」
光 「確かに、その瞳で子供んころから色々注目されてきたんやろけど・・・。」
紫苑 「瞳だけじゃないですよ。この黒髪も偽物です。本当はこいつ、柚子と同じ色なんです。」
光 「銀髪なん!?・・・はぁ、そりゃ目立つわな。子供ん頃は髪も染めんとコンタクトもしとらんかったんやろ?」
紫苑 「はい。俺も自分がみんなと違うことはわかっていましたけど、それを別にいけないことだとは思ってもいませんでした。」
光 「いけないこと?」
紫苑 「こんな普通じゃない人間を見れば、みんな好き勝手に詮索するんですよ。まだ学校という小さな世界だったし、うちの学校は色々と寛大だからどうにかできましたけど、これがもし、Lumie`re (リュミエール)が売れて、有名人にでもなってからだったら世間は大騒ぎです。」
光 「そんなん紫苑のせいとちゃうやん。」
紫苑 「俺が生きていることが世間に知れることを嫌う人達もいるんです。・・・俺は、・・・本当は生まれてきてはいけない・・・いまここに存在してはいけない人間なんです。」
光 「な、なんやねんそれ!そんなわけあるかっ!」
光は大きな目にいっぱいの涙をためて、紫苑の前に回り込み膝をついて紫苑を抱きしめた。
光 「そんなこと言うなやっ!紫苑は紫苑や。俺の目の前におる。生まれてきていけないわけあるかっ!」
紫苑 「・・・」
光 「嫌や!嫌やっ!・・・そんなこと言うなやっ!」
光は、今まで紫苑がどんな辛い思いをしてきたのか想像もできないけれど、紫苑の言葉が悲しくて悔しくて、紫苑にしがみついて泣いた。
紫苑はそんな光の背中に腕をまわして、やさしく擦る。
紫苑 「そんなに興奮したら、また呼吸ができなくなりますよ。」
光 「・・うぇっ・・・うえっ・・・し・・・おん・・・ひっく・・・」
紫苑 「すみません。・・・こんな話、誰にもしたことなかったのに・・・」
光 「ううっ・・・あやっ・・まる・・・なっ・・・ひっく・・・」
紫苑 「・・・はい。・・・ちょっと横になりましょう。」
紫苑はそう言って光を抱き上げるとベッドに寝かせ、自分はその隣に腰掛けた。
光 「・・・うぇっ・・しおんっ・・も・・一緒にっ…ひッ・・寝よ・・・」
紫苑 「・・・あなたって人は・・・」
光 「・・・?」
紫苑は光の隣に横になって、光を腕に抱きしめた。
紫苑 「ゆっくり眠ってください。」
光 「し・・おん、・・・どこにも行かんで・・・。」
紫苑 「・・・はい。ずっとここにいますよ、今夜は。」
紫苑が光の前髪を上げて、おでこにキスをすると、光は少し安心して、紫苑の胸に顔を埋めて寝息を立てた。
紫苑 「俺の為に・・・泣いてくれて・・・ありがとうございます。おやすみなさい。」
そして紫苑も眠りに落ちた。
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