<病院・夕方>
私は今年の初めに腕に怪我をしました。
その時の記憶はまったくありませんが、お母様に付けられた傷だと、後から望ちゃんに聞きました。望ちゃんとの交換日記は今も続いています。
私の中には望ちゃんの他にも珠絵さんとアンさんという人がいるそうです。
私は会ったことも話したこともないのでよくわからないのですが、夏休みになったらみんなで話をしましょうと言われています。珠絵さんがいればそれもできるそうです。
でも、いったい何を話すのでしょうか?
前にお兄様には望ちゃんと話をするように言われて、こうして交換日記をしていますが、他の人達とも話をする必要があるのでしょうか?
数日続いた雨もあがり、梅雨開け宣言のされたとてもよく晴れた日。
神田病院で田崎先生に退行催眠という治療を受けました。
今までも定期的に、忘れていた色々な記憶を取り戻したり、嫌なことも思い出したりする治療を受けてきましたが、今日は3歳の時の忘れ去られた記憶を取り戻すための治療を受けました。
その治療を受けると、まるで今自分が3歳であるかのような感覚になりました。
私が3歳だったその日。
眠りから覚めると隣には佳苗ちゃんが眠っていました。
お母様やお父様やお兄様、みんなが佳苗ちゃんを見ていました。
私は何が起きたのかわからなくて、お母様に近づき声をかけたのです。
でも、お母様は私を突き飛ばし、佳苗ちゃんを抱いて泣きました。
佳苗ちゃんは眠っていたのではなく、死んでいたのです。
そして・・・私は、佳苗ではなく望ちゃんなのです。
そう、この記憶は私のものではなく望ちゃんの記憶です。
私がこの時のことを思い出しているせいで、望ちゃんがお部屋で泣いています。
望ちゃんの泣いている声が聞こえる・・・。
閉じた瞳から涙が溢れだします。心が痛くて身体が震えます。
3歳の佳苗ちゃんは死んだのです。では、私は誰?佳苗ではないの?
治療が終わって目が覚めても涙が止まりませんでした。
宗一郎「大丈夫か?」
お兄様が優しく私の肩を抱き、頭をぽんぽんと軽くたたきながら顔を覗き込んできます。
佳苗 「・・・私は・・・誰?」
宗一郎「・・・・お前は・・・」
佳苗 「私は?」
お兄様の目をまっすぐ見つめました。
するとお兄様は私の両肩を掴んで言いました。
宗一郎「その答えは、自分で見つけるんだ。」
佳苗 「!?」
宗一郎「その答えは、ここにある。」
そう言って、私の胸を人差し指で押さえました。
佳苗 「私の、心のなかということですか?」
お兄様は優しく微笑んでゆっくりと、うなずきました。
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