祖父のおしゃべりをBGMに、軽トラに揺られてやっと向日葵畑が見えてきた。
そこには沢山の思い出があって、楽しかったことも多いはずなのに、今はただ胸が苦しくて思わず目を逸らした。
祖父母宅に着くと、祖母が俺の好きなものばかりを食卓に並べて待っていてくれた。
「颯ちゃん、久しぶりやね~。元気にしとったの?」
「うん。・・・元気だよ。」
「少しはゆっくりしていけるん?」
「そうだね・・・。」
東京の大学に行ってから、あまり帰ることはなかったし、帰ってきてもいつもとんぼ返りで、この町で長い時間を過ごすことはほとんどなかった。
ヨネ子は縁側の定位置で丸くなっている。近づくとゆっくりと目を開いて俺を見たが、少し目を細めてまた閉じた。その横に腰を下ろして頭から背中をそっと撫でた。皮の下はすぐに骨だ。だいぶ痩せたな。
「なぁ、ヨネ子。俺、あの日向日葵畑で良介にちゃんと話そうって思ってたんだ・・・。」
高3の夏、俺はもう自分の気持ちに気がついていた。良介のことを、友達としてだけではなく、恋愛感情で好きなんだということに。
だけど、その気持ちをどうしても良介には知られたくなかった。もし知られてしまったらきっともう、いまのままではいられない。良介の隣にいることも出来なくなってしまう。良介を失いたくない。
ただただ、知られないために必死だった・・・。
そのために、告白してくれた女の子と付き合ったりもしていた。もちろん長続きなどしなかったけれど。
「はぁ・・・はぁ・・・キス・・・してぇなぁ・・・」
「はぁ・・ふぅ・・・だっから・・んんっ・・そういうんはっ・・・彼女と・・しろって・・・」
俺は自分で言った言葉に傷つく。
良介はセッ○スをしているとき、やたらキスをしたがる。だけど俺はキスまでしてしまったらもう、自分の気持ちを隠しきれないとわかっていた。とにかく頑なに拒んだ。
「ふぅ・・・彼女はいらん。面倒なっ・・だけ・・で・・・」
良介が時々女の人と遊んでるのは知っていた。同級生とかじゃなくて先輩とか、どこで知り合ったのかずいぶん年上の女の人だったりしたけど、やっぱり長続きはしていなかった。付き合ってるっていうよりはセフレって感じだったのかな。
俺がやきもちを焼いていたことも、良介が俺がいいって言ってくれることにドキドキしていたことも、良介は知らない。
「んっ・・・セッ○スだって・・・颯太の方が気持ちいいしな・・・」
「セッ○スって言うな。・・・俺とのは違うだろっ・・・・あっ!・・あぁんんっ・・そこ・・・やめっ・・・」
「ほらな・・はぁはぁ・・・・可愛い・・・」
「ばっ・・か・・あぅ・・・」
だからこんなことを言われたらそれだけで・・・
「あっあっあぁ・・・りょうっ・・・すっけ・・あぁ・・イクっ・・・・」
「はっはぁはぁ・・・んっ・・・おれもっ・・んんっ・・・・」
そのころ俺たちがしていたのは、男同士のセッ○スだった。それはわかっていたけど、俺はそうじゃないって思い込もうとしていたし、良介にもそう言い続けていた。
それを認めてしまったらもう止められないとわかっていたから。
「颯太はなんでそんなにキスしたくないん?減るわけでもないしな、キスしたらもっと気持ちよくなると思うけどなぁ。」
「・・・そ、それは・・・俺らホモやないからなっ」
テレビでは、オネェタレントとか同性が好きだとかを公表する人とかいて、そういうのもあるんだって知ってはいたけど、こんな田舎町でそんなことがバレたら本人どころか家族、一族までもがこの町に居られなくなる。
家族も、良介も巻き込みたくなかった。これは俺の問題で、俺が良介を好きになってしまったことが問題なだけなのだから。
このままいつまでも、ずるずると良介との身体の関係を続けていくことは、誰にとっても良くない。良介にとっては、気持ちいいことをしたいっていう好奇心がエスカレートしただけのことだ。
女の子とするより俺とする方がいいって言ってくれるけど、それはずっとふたりでこんなことをしてきたのだから当たり前なんだ。お互いの気持ちいいところを知っているのだから。ただそれだけのことだ。良介はこれから恋人を作って結婚して、俺よりも長く一緒に居る女性が現れたらもう、こんなこと言わなくなる。俺とのこんな関係はなくなる。
俺は、良介と距離をとろうと決心した。文字通り距離。ひとりで東京の大学に行くことを決めていた。
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