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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
<妄想>です。
実在する地名・人名・団体名が登場しても、それは偶然ですので、まったく関係ありません。
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8月に入るとすぐにLumie`re (リュミエール)のメンバーは、神宮寺グループ所有の伊豆にある施設で合宿を始めた。
小さな山の上に、ホテルといくつかのコテージがあり、ゴルフ場やテニスコート、プール、温泉と様々な施設が整っている。普段は企業の研修などで使用されているが、夏休み中は家族連れが多い。
紫苑達はコテージのひとつを借り切った。その地下にはスタジオもあり録音もできるようになっている。ここで新曲を仕上げ、秋からの活動に弾みをつけようと計画していた。

急用が出来たと言う晴樹を除いた4人は、湊の車で一足先にコテージに到着した。
山の奥の、木々に囲まれたコテージはいくつかあるが、その最奥にあるもっとも大きな建物に彼らは宿泊する。時々神宮寺も使用するだけあって、他の建物とは大きさも造りも違っていた。
それぞれが荷物を持って車を降りると、コテージの管理人が迎えてくれた。

管理人「紫苑様、皆様お疲れ様でございました。」
紫苑 「お世話になります。あの、勝手にやりますから気を使わないでくださいね。」
管理人「かしこまりました。こちらが鍵になります。何かあればいつでも呼んでください。」
紫苑 「ありがとうございます。」

元刑事だったという噂の管理人は、人の良さそうな笑みを浮かべているがその瞳の奥は鋭く光っている。管理人は、このエリアの入り口付近に建つ小屋に3人が交代で常駐しているが、管理人と言う名の警備員だなと紫苑は思っている。

彰仁 「うわぁ~別荘みたいだね。広い。」
光  「自然もいっぱいやしな。ええところや。」
湊  「ほんまに、・・・静かやな。」
紫苑 「俺もここに来たのは小学生の時以来です。」
湊  「なんや、紫苑くんの小学生時代って想像しにくいな。くくっ。」
紫苑 「そうですか?・・・このままですよ。」
湊  「ぷっ。子供っぽくないなぁ。」
彰仁 「ねぇねぇ、部屋もいっぱいあるよ~」
光  「庭も広くて虫取りとかも出来そうやな。」

彰仁は部屋のあちこちを走り回り、光は中庭に出て深呼吸をしている。
湊は自分で持参してきた茶葉で紅茶の用意をしながら、そんな2人をみつめて微笑んでいた。

湊  「あのふたりは、今でも子供みたいやけどな。」
紫苑 「・・・。ハルさんは何時ころ来られるんですか?」
湊  「夕方までには到着するやろ。まぁ、今日はゆっくりしようや。」
紫苑 「そうですね。」


午後になり、横になるという湊と彰仁を部屋に残して、紫苑と光は散歩にでることにした。
周りに自然があるせいか東京よりも少し涼しく感じる。いつもはうっとうしいだけの蝉の鳴き声さえもBGMに聞こえるから不思議だ。
コテージが立ち並ぶ一角を抜けるとゴルフコースがあり、その向こうにホテルが建っている。そこを超えるとテニスコートやバスケットコート、プールなどがあって、子供たちの賑やかな声が聞こえてきた。

光  「柚子どうしてるやろか~。連れてきてあげたかったなぁ。」
紫苑 「翔さん、猫好きだから大丈夫ですよ。出張あるみたいなこと言ってたけど連れて行くって言ってたし。」

湊が猫アレルギーの為、光は泣くなく連れてくることを断念し翔に預けてきた。

光  「そうやな。しゃぁない。・・・そやけど、ほんま広いなぁここ。」
紫苑 「そうですね。映画やテレビの撮影でも使われたりするみたいですよ。あっちにチャペルもあるし。」
光  「まじか?すごいな。それやったら新曲のPVも撮れそうやん?」
紫苑 「そうですね。・・・チャペル覗いてみます?」
光  「おお。」

紫苑はさりげなく光の手をとると、歩き出した。
チャペルはコテージへ戻る途中にあった。この施設の敷地はひと山分全てだ。コテージへの道も幾つか種類がある。先ほどとは違う道だったが、ひとりなら迷子になりそうだと光は思った。
そのチャペルは林に囲まれた中に、夕陽を浴びて建っていた。白い壁に薄いオレンジ色の屋根。小さなチャペルだが三角屋根のてっぺんには十字架が光っている。
人影もなく静かなチャペルの扉に近づき、紫苑はゆっくりとその扉を開いた。

温かみのある木でできた長椅子がいくつか置かれ、その奥には十字架とマリア像がある。
天井は高く、小窓から入る灯りが静かにそれを照らしていた。

光  「素敵やな・・・。」

光が小声で話し、紫苑を見上げると、少しだけ口角を上げた紫苑がまぶしそうに光を見つめた。

ほんま、表情筋使うとらんな・・・。

光はそんなことを思いつつも、今では紫苑のちょっとした表情の変化もわかるようになっていた。
マリア像の前まで歩み寄ると、ふたりは自然と手を合わせて目を閉じた。

光  「ここで何組くらいのカップルが結婚式挙げたんやろか?」
紫苑 「さぁ、どうでしょうね。・・・ただ男女のカップルはひと組もいませんよ?」
光  「はあ!?」
紫苑 「親父が作ったチャペルですから。男性同士のカップルの為の場所です。」
光  「・・・なるほど。普通の結婚式場やったら無理やもんな。」
紫苑 「そうですね。もともとは親父が愛する人と結婚式を挙げる為に作ったそうです。」
光  「それって、翔さん?」
紫苑 「いいえ。・・・俺も生まれる前のことみたいです。祖父から聞きました。」
光  「そうなんや。・・・その人の事、ほんまに好きやったんやろな。」
紫苑 「・・・俺たちも、ここで結婚式しますか?」
光  「えっ!?なっ、何言うてんねん。けっけっけっ・・こんしきって・・・」

光はみるみる赤面した。
紫苑は、そんな光の頬を両手で包むと、少し屈んで唇を重ねた。

紫苑 「・・・今すぐは無理でも、俺が光さんを養えるようになったら結婚しましょう。」
光  「・・・。養ってもらわんでもええ。・・・俺は女やない。」
紫苑 「はい。すみません。俺が親父の手を借りなくても生きていけるようになったら・・・。」
光  「Lumie`re (リュミエール)がメジャーになったら、自然にそうなるやろ。」
紫苑 「そうですね。・・・だから、今は誓いのキスだけ・・・」

紫苑はそう言うと、また光の唇を塞ぎ、髪を撫でて抱きしめた。

すると、入り口の扉がゆくりと開いたので、紫苑と光は慌てて身体を離すと扉に目を向けた。扉を開いた人影が揺れて顔を上げると、紫苑達に気づいた風で動きを止めた。

光  「!?・・・雅紀?・・・雅紀やないか!?」
???「っ!?」

光が叫ぶと、その男はそのまま走り去った。

紫苑 「光さん?知ってる人?」
光  「たぶん、雅紀やと思う。・・・暁と一緒にバンドやってたボーカルの・・・。」

紫苑は扉まで走って外を見たが、もう既に人影はなかった。



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