<紫苑の部屋・夕方>
ふたりで翔が作り置きしてくれたオムライスを食べ終えると、紫苑は光に家の中とビルの周りを案内することにした。
紫苑 「光さん?今日からここはあなたの家ですから、遠慮はしないでくださいね。」
光 「あ、あぁ。・・・そうは言うてもなぁ。めっちゃ広いし、高そうな家具いっぱいあるし。なんやちょっと緊張するで。」
紫苑 「大丈夫です。例え、そこのテレビを壊しても、あのソファに穴を開けても、親父は怒りません。物に対して執着心ありませんから。もちろん、わざとは困りますけど。」
光 「親父さん大事にしてるもんとか、ないん?」
紫苑 「ん・・・。ここは趣味用の家なので、財産的なものも会社関係のものも置いていませんしね。しいて言えば、あのグランドピアノは大事にいているのかな・・・。」
光 「はぁ。なんや桁違いで別世界の話みたいや。」
紫苑 「そうですか?・・・えっと、テレビは俺ほとんど見ないので、このリビングにしかありません。映画とか見る時は、西側エリアにシアターがあるので、そこで見ます。」
光 「シアター?」
紫苑 「まぁ、ちょっと大きめのスクリーンと音のいいスピーカーがあるくらいです。親父が使ってなければ、使って大丈夫ですよ。俺も、親父のエリアに行くのはそのシアターとピアノの部屋と、時々書斎に本を借りに行くくらいですけど。」
光 「あぁ、紫苑めっちゃピアノ上手やったなぁ。また、聴きたいな。」
紫苑 「神宮寺の息子として生きる条件のひとつなので、下手に弾くわけにはいかないだけです。・・・でも、あの夜は光さんを想って弾きました。」
光 「え・・・?」
だ、だからなんで紫苑はそういうことを、さらっと言うねん。
光は、そんな紫苑の言葉が嬉しくて、そしてドキドキしてしまう。
頬を赤く染めてそっと紫苑を見ても、紫苑は顔色ひとつ変えずに歩き出した。
紫苑 「そうだ。光さん、作曲はどうしてるんですか?荷物に楽器とかなかったですよね?」
光 「俺な、パソコンのソフトに音符入れて音作ってんねん。取りあえずメンバーに聴かせるだけでええから、楽器なしで歌を録音してみんなに聴かせる時もあるで。」
紫苑 「楽譜読めるんですね?」
光 「ちいちゃい時、ちょっとだけピアノやっとったからな。」
紫苑 「なるほど、キーボードとギター位ならこっちの楽器の部屋にあるので、使ってくださいね。」
光 「ほんまに?下手くそやから恥ずかしいけど助かるわ。」
紫苑 「後は、柚子の部屋でしょ・・・俺の書斎と・・・」
光 「紫苑の書斎?」
紫苑 「あぁ、勉強部屋とも言います。何か必要な文献とかあれば探しますよ?親父の書斎は趣味本ばかりなので、音楽関係はあっちの方があるかな。論文とかに使う本ならこっちのほうが豊富だと思います。」
紫苑の書斎のドアを開いて中に入ると、光はあんぐりと口を開けて周りを見渡した。
壁いっぱいに本棚がはめ込まれスライドできる棚もあり、専門書や百科事典などもそろっている。ちょっとしたライブラリーだ。
光 「なんやこれ?高校生が読む本やないやろ?」
紫苑 「これも、・・・条件のひとつですから。」
光 「はぁ、すごいなぁ。あっ、そう言えば、学校で呼びだしあった言うてたけど、補修とかそういうんとちゃうんやろ?」
紫苑 「ええ。・・・この間のテスト中、美郷さんの件があったりして、俺何も考えずに解答用紙埋めてしまったので・・・全ての科目で満点とってしまったんです。」
光 「はぁ?満点・とって・しまった?・・・普通喜ぶんちゃうんか?」
紫苑 「・・・困るんです。俺、今普通クラスなんですけど、特進クラスに編入しろって進められて・・・。T大とかW大とか行く気ありませんしね。これ以上学校に時間とられるのは困るんで。」
光 「そうやな・・・。紫苑は音楽するんやもんな。」
光があまりにも嬉しそうにニッコリ笑うので、紫苑は思わずその頬にキスをした。
紫苑 「じゃぁ、1階のロビー行ってみしょうか?」
紫苑は、自分の唐突の行動に少し驚いて、耳が熱くなったことを光に知られたくなくて、急に踵を返すと玄関へ向かった。
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