<ライブハウス・午後②>
光の目の前には信じられない光景があった。
モデルみたいにスタイルが良くて綺麗な女の子が紫苑に抱きついている。
久しぶりに会えたのに。
嬉しさで、口元が自然に緩んだ笑顔で目が合っても怪訝な顔をされた。
なんや・・・やっぱりあれは夢やったんやな?
紫苑くらいカッコよかったらモテるやろし、彼女がいたって当然や。
俺、何をひとりで舞い上がってたんやろ。あほやな・・・。
あの日、やさしくしてくれたんは、俺が傷ついてたからや。
俺が、好きや言ったから・・・
莉薗 「みなさん、紫苑がいつもお世話になってます。これ差し入れです。どーぞ。」
料理もできて、綺麗な女の子・・・俺なんかよりずっと紫苑にお似合いや・・・。
湊 「じゃぁ、ちょっと休憩にしようや。」
あかん・・・目の前がぼやけてなんも見えんくなってきた・・・。
光は大きな瞳を涙でいっぱいにして、小刻みに震えていた。
その時、湊と話をしていた紫苑と目が合った。
その視線に耐えられず、光はライブハウスの重い扉を開いて走り出していた。
紫苑 「莉薗!お前が彼女の訳がないってこと、ちゃんとみんなに説明しとけっ!」
莉薗 「え~?いいじゃん。どうせ誰ともマジで付き合う気ないくせに~。」
莉薗のその声は既に紫苑には届いていない。紫苑は、光を追って店を飛び出した。
<公園・午後>
まだ梅雨は明けていないが、良く晴れていて日差しが暑い。蝉の鳴き声が紫苑を更に苛立たせる。
スイートポテトを出て、光を追って走り、公園の入り口でやっと光を捕まえる事ができた。
紫苑 「光さん!」
紫苑がその白く細い手首を掴むと、大粒の涙を零しながら光は振り向いた。
光 「なんやねん!離せ。」
紫苑 「離しません。」
光 「彼女んとこ行けばええやろ。」
紫苑 「彼女じゃありません。あれは、兄です。」
光 「なっ!?もうちょっとマシな嘘つけや。」
紫苑 「嘘じゃありません。あれは、神宮寺莉薗。誕生日は違いますけど同じ年の兄です。」
光 「綺麗な・・・モデルみたいな女の子やんか。兄ってなんやねん!?」
紫苑 「心は女だそうで女装してますが、生物学上は男です。」
光 「・・・ようわからん。」
紫苑 「説明すると長くなりますので、後でゆっくり話ますが、とにかく彼女じゃありません。・・・俺は光さんだけですから。」
光 「・・・」
紫苑は掴んでいた光の腕を引くと抱きしめた。
光 「あ、あほ。こんな所で何すんねん。」
紫苑 「あほって言うな。・・・これでも、本当はキスしたいけど我慢してるんですから。」
光 「そ、そ、そんなこと言うたかて、会った時も、なんや怒ってたやんか?」
紫苑 「あれは、光さんが悪いんです。」
光 「なんでやねん。」
紫苑はむき出しになっている光の左肩にキスをした。
紫苑 「露出しすぎです。」
光 「はぁ?こんなんいつもやんか。それに俺は男やで。」
紫苑 「関係ないです。光さんの肌・・・誰にも見せたくないんです。」
光 「・・・な、なんやねん。」
紫苑 「それくらい・・・光さんが好きです。」
光 「え?」
紫苑 「・・・今は、そんな何度も言いません。・・・店に戻りますよ。」
紫苑は、光の手を引いて歩きだした。
光 「だ、だからこれまずいやろ。こんな昼間から・・・。」
背の高い紫苑が大股で歩く後を、少し小走りに歩く小柄な光は、遠目には女の子のように見える。昼間から手をつないで歩いていても、それほど注目されることもなかった。
紫苑は少しだけ口角をあげて、まっすぐ前を向いて歩いた。
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