<紫苑の部屋・夜>
運転手が「楽園」と呼んだビルの地下に到着するとエレベータで最上階まであがってきた。
その頃には光も紫苑に支えられながら、ゆっくり歩けるようになっていた。
車を降りてから紫苑は光の手をずっと握っているが、やはり一言も言葉を発していない。
エレベータを降りて扉を開くと、そこはえらく広い玄関だった。
光 「うわぁ・・・玄関だけで俺の部屋全部入ってしまいそうやな。」
光はキョロキョロと周りを見渡しながら、紫苑に手を引かれ奥へと進んでいく。すると、そこはこれまた広いリビングだった。そこからは、いくつかの通路や扉があって、このビルの最上階の全てが繋がっていることを光にも理解することができて、少々度肝を抜かれていた。
光 「え?・・・ここが、紫苑ち?」
光がぽかんと口を開けたまま紫苑を見上げると、突然強く抱きしめられた。
光 「んっ!!」
光は一瞬驚いたが、そろそろと紫苑の背中に腕をまわして力を入れた。
紫苑 「・・・」
光 「・・・紫苑?」
紫苑 「・・・」
光 「紫苑、・・・助けてくれて、・・・ありがとう。」
紫苑 「・・・もう、・・・こんなの・・・勘弁してください。」
紫苑は絞り出すような声で、やっと言葉を発した。
光 「ごめん。・・・ほんま、ごめんなさい。」
紫苑 「・・・俺の、心臓が持ちませんから・・・」
光 「紫苑・・・」
そしてまた、しばらく無言のままふたりは抱きしめ合た。
少し落ち着くと、光はシャワーを借りることにした。
岸谷に触れられた場所を全てきれいに洗い流したかったから。もちろん、そんなことで、全てがなかったことになどならないことはわかっていたけれど。
いざ、シャワールームでひとりになると光は恐怖心がこみ上げてくるのを押さえることができなかった。岸谷がコレクションだと言って見せた少年たちの写真。その中に、暁のバンドのボーカルもいたのだ。どんな酷いことをされたのか、目は虚ろで拘束された身体は脱力し、下腹部は様々な液体でどろどろになっていた。
紫苑が助け出してくれなかったら、自分もそんな風になっていたのかと思うと、身体が震えた。
岸谷に触れられた場所、唇や舌を使われた場所を強く擦って何度も何度も洗い流した。
怖くて、そして悔しくて涙が溢れてくる。嗚咽を堪えて泣いた。
光はその涙も、ひとしきりシャワーで流すことしかできなかった。
紫苑に借りたパジャマは光には少し大きかった。
ぶかぶかのパジャマを着てリビングに行くと、紫苑がミネラルウォーターを用意してくれた。光はお礼を言って受け取ろうとするが、手が小刻みに震えていてコップを上手く持つことが出来ない。
紫苑 「・・・?光・・さん?」
光 「あ、あっ・・・な、なんでやろ?はははっ」
紫苑はコップをテーブルに置くと、光の震える両手をとって自分の胸の前で握りしめた。
紫苑 「怖かった?」
光 「・・・」
紫苑 「我慢しないで。」
光は紫苑の紫色の瞳をまっすぐに見上げるが、すぐに涙で滲んでしまう。その目尻からぽろりと雫が頬をつたって落ちた。
光 「しお・・ん・・・キス・・して。」
紫苑 「・・・?」
光 「記憶の・・・上書き。・・・本当のキスは・・・紫苑とだけが・・いい。」
紫苑は光の両頬を掌で挟んむと、すこし屈んで唇を重ねた。
はじめはその薄い唇を何度も啄み、次に唇の間から舌を出し入れし唾液を絡める。
光は少したどたどしく、それに応えた。
何度も角度を変えて唇を重ね合うと、光の吐息が漏れる。
光 「んっ・・・はぁ・・・はんっ・・・んふぅ・・・」
紫苑 「光さん?・・・他は?・・・あいつはどこに触れたの?」
光 「んふっ・・・首・・とか・・・むね・・・とか・・」
紫苑はキスをしたまま、片手で光のパジャマのボタンを外した。
唇を離し、光を見つめパジャマのシャツの肩を肌蹴させ肘まで下ろすと、肩に口づけをする。そこから首筋に唇を這わせた。
紫苑は肌蹴た光の胸に、いくつもの赤い痕を見つける。
紫苑 「これは?」
光 「・・・さっき・・・擦りすぎただけや・・・んんっ!」
紫苑はその赤い痕を、舌先で優しく円を描くように舐めた。
光の記憶から、あいつが消えてしまうように。紫苑は丁寧にゆっくりと愛撫をする。
光は、そんな紫苑のやさしく少しじれったい愛撫に、どんどん身体が熱くなっていくのを感じていた。そして、光の身体のあちらこちらを撫でていた手が、ひときわ熱を帯びてしまっていた下腹部に触れた時、光は自分でも驚くほどの衝撃を受け声を漏らした。
光 「あぁんっ!」
光は自分の口から発せられた、今まで聞いたこともないような鼻から抜ける甘い声に、思わず紫苑の胸を強く押し戻していた。
その瞬間、紫苑は一瞬悲しそうに瞳を揺らし、そして微笑むと光から離れた。
紫苑 「もう、大丈夫・・ですか?・・・俺もシャワー浴びてきますね。」
ちゃうねん。・・・拒絶やないねん。
光は、紫苑をひどく傷つけたことに気付いたけれど、取り繕う言葉を見つけることもできず、風呂に向かう紫苑の背中をただ見送ることしかできなかった。
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