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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
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<ホテルのラウンジ・夕方>

翌日の午後紫苑は、神宮寺零王として見合いをするために、神宮寺グループが所有する銀座のホテルのラウンジにいた。
もちろん隣には神宮寺久遠が無表情で座っている。先ほどフロントに声をかけていたので、このホテルの最上階にあるスィートに宿泊中であろう湊親子は、間もなくラウンジに到着するだろう。

紫苑 「詰襟、窮屈。」
神宮寺「零王は、そんなことを言わない。」
紫苑 「従順なお人形だからな。」
神宮寺「今は、お前がその人形だ。」

紫苑が零王の代役をするのは、これが初めてではなかった。
零王は高校生でありながら、既に神宮寺グループのいくつかの企業に携わっていた。
しかし体調を崩すことも多く、重要な会議や視察などの時は紫苑が代役を務めていた。
仕事に関することならまだ良かったが、今回は見合いというのが紫苑は気に入らなかった。更に、今サポートをしているバンドメンバーの妹というのが、どうにも尻の座りを悪くしている。

紫苑 「・・・しかし、下手くそなピアノだな。」
神宮寺「今日が最後だ。」

ラウンジにはグランドピアノが置いてあり、ホテルで雇ったピアニストが演奏をしているのだが、紫苑は先ほどからその音が耳触りで更にイライラしていた。
一般の人が聴いている限りでは決して下手なわけではないのだが、耳の肥えた二人にはただの雑音にしか聞こえなかった。

紫苑 「うわ、クビかよ。」
神宮寺「下手なピアニストを雇ったマネージャーも減給だな。」
紫苑 「・・・」

本当に容赦ないな、この人は。そのうち刺されるぞ。

ふたりは正面を見たまま並んで話をしていた。お互いににらめっこをしたら勝負がつかないくらいの無表情だ。周りにいる人達は、まさかこの二人が会話をしているとは気づかないだろう。ある意味良く似た親子なのだ・・・。

支配人 「社長、湊様をお連れいたしました。」

支配人が湊 倫太郎(りんたろう)と娘の梨里香(りりか)をラウンジに連れてきた、神宮寺と紫苑は立ちあがって挨拶をする。

紫苑は目の前の湊親子を見て、湊祥一郎は母親似であることを確信した。父親の倫太郎は、女子が憧れる王子のような佇まいの祥一郎とは似ても似つかない、丸顔で体格もがっちりしている。
娘の梨里香は父親似だ。小柄で丸顔だが、目は大きくて笑顔が可愛らしい。紫苑よりひとつ下の高校1年生だ。まだ、あどけなさも残っている。
梨里香は19歳で神宮寺家の、零王の子供を産まなければならないということを理解しているのだろうか?神宮寺家に嫁ぐということがどれほどのことなのか・・・。
紫苑は少し気の毒に思えた。

紫苑と梨里香は自己紹介をしたくらいで、後はほとんど親同士が話をしている状態だった。
梨里香は少し俯きながらも、その視線は紫苑を捉えている。自分が将来結婚する相手がどんな人物なのか見極めようとしているのだろうか?
紫苑は、背筋をまっすぐに姿勢をただし、表情は・・・微笑んでいた。
いつも無表情の紫苑だが、零王になりきる為に、この微笑みを習得していた。
目を細め口角を上げて柔らかなに微笑むその表情は、零王そのものだ。

倫太郎「梨里香、どうやピアノでも弾かせてもらい」
梨里香「な、何いうてんの。恥ずかしいわ。」
神宮寺「それは是非、お聴きしたい。」

神宮寺はすぐに支配人を呼んで耳打ちをする。
梨里香は支配人に促されピアノの席に着いた。
そういえばいつの間にか先ほどのピアニストは姿を消している。
梨里香は一度大きく深呼吸をすると、両手をピアノの上に置き鍵盤を弾きだした。
ショパンの「仔犬のワルツ」だ。
可愛らしい梨里香にぴったりな選曲だ。まるで仔犬が梨里香の周りにじゃれているかのような音色とリズム。
紫苑は零王の微笑みを梨里香に向け、目を細めていた。

倫太郎「うちの子供たちの中じゃ一番下手くそなんやけどな、わしはこの子のピアノが一番好きなんや。」
紫苑 「わかります。とても躍動感があって可愛らしい。心踊らされるようです。」
倫太郎「そうやろ?零王くんは耳がええな。」

確かに祥一郎の方が数段上手いし技術や繊細さがまったく別物だった。
梨里香の音は個性そのものなのだから、好きか嫌いか人それぞれなのだろう。
零王はこの音を好きだろうか?
紫苑は、兄弟でありながら父親の人形のごとく反発もせずに、いつも微笑みを浮かべながら人生を歩んでいる零王の本心を、正直いまひとつつかみきれていなかった。

梨里香が少し頬を赤らめて席に戻ってきた。ラウンジ内の人々から温かい拍手が送られている。

梨里香「いややわぁ。恥ずかしい。」
紫苑 「素敵でした。」
梨里香「ほんまですか?」

梨里香は嬉しそうだ。今日はお嬢様らしくしているが、本当はだいぶ活発な女性のはずだ。
紫苑はそう思っていた。

神宮寺「零王も1曲弾いてきなさい。」
紫苑 「!?」

はぁ!?まったくこの人は・・・何をたくらんでいるんだ?

梨里香「わぁ!是非、お聴きしたいわ。」
倫太郎「神宮寺さんもピアノされるそうやし、零王くんも上手いんやろなぁ。」
神宮寺「家でも気晴らしによく弾いていますので。なぁ、零王。」

これ以上、ハードルあげるな!くそっ!覚えてろよ!

紫苑は心の中で悪態をつきながらも、支配人に促され席を立った。



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