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響瑠

Author:響瑠
ここに書かれている日記は
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<悩める翔くんと楽園の秘密の関係>

俺は事務所でひとり、パソコンに向かって楽園の今後について考えていた。
このところ、うち(楽園)の稼ぎ頭のアクター達がこぞって引退を決め込んでいる。

ウケSの渚が、撮影で知り合ったコウと付き合いはじめたこともあって、流石に俺から言って引退させた。渚は義理がたいところもあるしプロ根性があるから続けるつもりだったらしいが、俺はそれよりも渚には好きな男と幸せになってほしい気持ちの方が大きい。
渚は子供のころから十分苦労をしてきたんだ。コウは若いし、その器がどれほどのものかわからないが、男気のある奴だと思う。渚を幸せにしてやってほしい。
渚は頭が良くて、実は有名大学に籍を置いていたが休学していた。復学して卒業したら、うちを手伝ってもらえたらなと思っている。バイトでマリンさんに就いてマネージャーもやってもらう。頭が切れて気配りも出来るから適任だな。
コウはカメラに興味があるらしいので、ゲンさんに育ててもらおう。

タチSの和樹は、もうすぐ29歳だ。そろそろ将来のことを真剣に考えているんだろうなとは思っていたが、これまた撮影で知り合った10歳も年下の宇宙にマジ惚れしたらしい。
宇宙の実家は色々複雑らしく、両親と話をつけてきた和樹はすっかり保護者になってしまった。
まぁ、それでスタッフとして残ってくれる決心をしてくれた様なので、俺としてはかなり助かっている。
宇宙もアクターは無理なので、ヘアメイク学校に通いながら、マリンさんのもとで手伝いをしてもらおうと思ている。

俺は俺で、楽園の運営を任せてもらって忙しく、アクターしている時間もない。
俺ももう28歳になるし、もともと3年の契約だったのだから、ちょうど潮時というもんだろう。


3年か・・・
もう、あれから3年も経ったんだな。

3年前、それまで所属していた芸能事務所をクビになった。
一時はイケメン俳優とか言われて、そこそこ仕事もあったのだが、25歳になる頃には徐々にスケジュールが埋まらなくなっていた。
小さな事務所だったが、社長は若いイケメンが好きで、それなりのメンバーを揃えていた。
その中でも俺は看板タレントだったが、次の獲物を見つけた社長はそっちに乗り換えたってわけ。
そう、俺は事務所の女社長と寝て仕事をもらっていたの。
バイトでホストとかもやったけど、あれはマメな男じゃなきゃできないね。それに毎晩あんなに酒を飲んでいたのでは身体がもたない。
ホストやるくらいなら、オバチャン社長を抱いて仕事もらえる方が俺には数倍楽だった。
訳あって、どうしても毎月それなりの金が必要で、堅気の仕事ではとうてい追いつかない。
それで、芸能活動なんてしてたけど、とうとうクビになってしまった。

女社長「翔ちゃん、ごめんね~。あんた、いい男だけど綺麗すぎて難しいのよね~」
翔  「はぁ。」
女社長「数名いるイケメンの中にまぎれてればいいんだけど、ピンで入ると女優さんくっちゃうからさ。25歳にもなって学園ものもそろそろ難しいしね。」
翔  「そうですね。」
女社長「いままでお疲れ様でした。ギャラはちゃんと振り込むからね。」

顔が綺麗って、そんなこと今さら言われてもね・・・。
この日は事務所を出てから、とにかく飲みまくった。最初は友達呼び出して飲んでいたが、だんだんみんな帰っちまって、いつの間にかひとりになっていた。
まわりはクリスマス気分で浮かれてるカップルばっかりだし、なんだか街の喧騒に嫌気がさして普段は行かないような路地裏に入っていったんだ。
そこにポツンとある、ちょっとお洒落なバーを見つけて何の気なしに扉を開いた。

ママ 「いらっしゃいませ~。あら、いい男ね~。カウンター空いてるわよ。どーぞ。」

げっ!オカマバーかよ。
まぁ、いいか。どうせひとりで朝まで飲むつもりだし、女の機嫌をとりながら飲むより気楽でいいかもな。
ママに促されるままにカウンターに座ると、ウォッカをロックでオーダーした。とにかく冷えた身体を温めたかったのだ。

ママ 「それにしても綺麗ね~」
翔  「どーも。でも、この顔で仕事クビになったんだけどね。」
ママ 「あら~。それはヤッカミっていうものだわね。」

流石にママは、話が上手くてしゃべっていても飽きない。俺は少し荒れていたのでなんとなく憂さ晴らしに自分の話を色々していた気がする。
途中トイレに行くと、個室から何やら如何わしい声と音が聞こえてきた。
はぁ?マジか。トイレでやるとか、すげーな。
席に戻ろうとして、俺は初めて店内を見渡し、唖然とした。
男しかいない。テーブル席では手を握り合って見つめ合う男ふたりのカップルたち。
ここって、そういう店だったのか?ヤバイな。
席に戻ると、ママはカウンターの奥の席にいる客と話をしていた。
高そうなスーツをさりげなく着こなしているその男は、なんだかすごいオーラを出していて目立つのに、俺は今まで気づかなかった。どんだけ周り見えてないんだ?
結構酔ってるな。そろそろ出ないと、と思っているとその男が声をかけてきた。

男  「うちに来るか?」
翔  「は!?」
男  「芸能事務クビになったんだろ?」
翔  「まぁ。・・・あの、どこぞの芸能事務所の方ですか?」
男  「似たようなもんだ。金が必要なんだろ?」
翔  「ええ。」

その男の声は低く響く。艶やかな黒髪を綺麗になでつけ、切れ長の双眸の中にある漆黒の瞳が俺を捉えていた。
俺とママの話を聞いていたのか、ママが話したのかわからないが、事情を知っているようだった。

ママ 「大丈夫よ~怪しい人じゃないから。」

ママが加勢する。
俺はその男の瞳に吸い寄せられるように立ち上がった。

翔  「よろしくお願いします。」
男  「なら、ついて来い。」

そう、この男こそが「楽園」を含む神宮寺グループの社長で、神宮寺久遠だったのだ。



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