<ライブハウス・夜②>
Lumie`re (リュミエール)は、技術はもちろん、ビジュアル的にもとてもまとまっていた。
キーボードの湊とギターの晴樹は紫苑より少し目線が上なので身長は180cm以上ある。
湊は冷静沈着で、長髪のサラサラヘアが似合っている。少女マンガの王子様よろしく、薔薇でも背負っていそうだ。
晴樹は、大雑把そうに見えるが実はさりげなく周りを良く見ている。ルパン三世のような細い腕と足で、細身のジャケットと皮パンが似合っていてかなりのお洒落だ。
ドラムの彰仁は、ふたりと並ぶと小さく見えるが、光よりは10cm以上身長が高いはずだ。
まだ、幼さを残す童顔だが、ドラムを叩く筋肉はしっかりついている。
そして、どの曲もロックでありながら、どこか温かい歌詞がこころに響く、Lumie`re (リュミエール)の曲。
あとは、あの時のベースの音さえあれば、あの<声>が聴けるのに・・・紫苑が、そんなことを思いながらステージを見ていると、光と目が合った。
やっぱり綺麗だな・・・なんで男なんだろう。
光 「紫苑!」
紫苑は、マイクを通して光に名前を呼ばれ我に返った。
光が自分を見ていたのは、紫苑にステージに上がって来いという意味だったのだ。
紫苑がステージにあがると、光がマイクを外して耳打ちする。
光 「何、ぼーっとしてんねん。あほ。」
紫苑 「あほって言うな。」
紫苑は、むすっとしながらもセッティングをはじめた。
光 「次が、ラストの曲です。今夜は暁が出られへんことになって、湊の打ち込みでライブしてきたんやけど、この曲だけは、ベースを生音でやりたかったんです。ほんで、ここでバイトしてる彼に急きょお手伝いをお願いしました。紫苑くんです。」
好意的に拍手をする人がほとんどだったが、腕組をして後ろの方から睨んでいる人も数人いる。暁のファンの子だろう。紫苑はそんなことはまったく気にしていなかったが。
紫苑は無表情のままチューニングをしていた。
光 「今からやる曲は、俺らが大阪時代にやってた曲で、東京では初めてです。」
ステージのすぐ前に陣取っている熱烈ファンらしき子たちから、ざわざわし始めた。
光 「俺らの大阪ん時から知ってる子は、もうわかっとるみたいやな?・・・そう、あれからずっとやれてなかった<Believe In Future>です。」
前列のファンから黄色い声があがる。昔の定番の曲ってことなのだろう。
光 「あれから俺、ずっとこの曲が歌えんかった。そやけど、アキが正式メンバーになった記念に、今夜やろうって決めました。こっち来てからファンになってくれた子は知らんと思うけど、大阪ん時のメンバーがふたり、もうここにはおりません。そいつらと作って歌い続けてた、大切な曲やねん。」
シーンとなった会場から、今度はなぜかすすり泣きが聞こえてくる。
光 「うしろばっかり見てたら、大事なもん見逃してしまう。下ばっかり見てたら目の前の事も見逃してしまう。そやからちょっとずつでも顔上げて、前を向いて歩きだそうと思います。2年もかかってしもたけど。やっとそう思えるようになりました。」
客 「待ってたよー。」
光 「ありがとう。・・・クリもタクも・・・ここにおる。」
光は親指で自分の心臓を指す。少し声が震えているようだ。
ファンの子たちも、光と同じように胸を指し頷いている。
光 「まだ、あん時みたいに歌えんかもしれんけど、ずっと一緒にやってきた湊とハルと、新しくメンバーになったアキと、そして今夜お手伝いしてくれる紫苑くんと、この5人でやる<Believe In Future>を、ここにいるみんなと感じ合いたいんです。」
客席からは大きな拍手と黄色い歓声が上がった。
紫苑には詳しい理由はわからなかったが、この曲が彼らにとって大事な曲であることは十分に受け取ることができた。
そして自分にとっても大事な曲なのだ。
2年前に憧れたベースを今、自分が胸に抱えている。
自分の音で光のあの<声>を引き出すことができるだろうか?
リハ中、光は音の全体のバランスを見たり指示を出したりするだけで、ほとんど歌っていない。
だから、紫苑のベースで光が歌うのは、後にも先にもこのステージ、たった1度だけなのだ。
光 「ほな、いくでー!Believe In Future!」
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